職員同士の相互評価でチーム力を上げる
現在の人事管理制度がスタートしたのは平成16年。きっかけは給与体系の見直しでしたが、適切な処遇には、評価の実施や職員像の明確化なども必要と考え、人事管理制度全体の見直しをしました。特に人事評価制度は、法人に合ったものを構築するために、いろいろな工夫をしています。
【事業所プロフィール】
名称:社会福祉法人和松会
設立:昭和48年
所在地:静岡県菊川市棚草1258
事業:軽費老人ホーム、特別養護老人ホーム、障害者支援施設等
従業員数:約170名(正規職員約100名、パート職員約70名)名称社会福祉法人和松会
人事制度の目的と採用
社会福祉法人和松会は、高齢者福祉だけでなく障害者福祉の事業も展開しています。積極的に法人の規模拡大を目指したのではなく、地域の要望に応えてきた結果です。そのため、同法人の人事制度は、地域の福祉ニーズに迅速に対応し、誰もが住みやすい地域づくりへの貢献を目指し、サービスレベルを維持・向上させること、経営的な観点から合理的な処遇を実現することを目的としています。
同法人では、人事異動は、原則として、本人が別の事業所でキャリアを積みたいという自主性を重視して行われており、高齢者福祉と障害者福祉の事業所間の職員の異動もあります。
採用は、ハローワークや学校からの紹介が中心ですが実習を受け入れた学生からの応募もあります。最近は大卒が増加しており、福祉系大学が中心ですが、それにこだわらず、様々な人を採用しています。
新入職員には、まず、入職前の3月に半日の採用者研修を2日間実施します。入職後は、OJTを通して指導・育成を行いますが、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12 ヶ月目に研修を行ってフォローしています。6ヶ月目に、仕事の振り返りや今後のイメージを書いてもらい、面接等ですり合わせを行っています。
職種の役割を明確にした上で職層・等級を定めた評価制度
同法人の評価制度は、適切かつ納得感のある処遇の実現と人材育成を直接的な目的とし、求められる役割や能力をどの程度果たすことができたかを評価します。同法人では、職種を施設管理職、介護職、コーディネート職、看護職、栄養職、事務職に分類し、この職種ごとの役割を明確にした上で、職層と等級を定めています(図表1)。職層は、大きくは、管理職層、指導職層、一般職層の3階層に分かれます。一般職員層についてはさらに、キャリアに応じて「経験豊かな遂行者(P3)」と「日常業務の遂行者(P2)」に分かれており、標準的には5~6年でP3からP2の等級に昇格します。また、図表2のとおり、職種ごとに昇格における資格要件を設定しています。
[図表1:等級と役割]
図表2:等級と資格
職員間の相互評価制度の構築
人事評価制度の構築で最も苦労したのが、評価基準の作成です。制度設計においては、コンサルタントを活用しましたが、職種別に丁寧にヒアリングして作成しました。こうして作成された「和松会 人事評価表 兼自己申告書」が図表3です。
[図表3:「和松会 人事評価表 兼自己申告書」(P3用)(抜粋)]
このシートは、12月に職員に配布され、自己評価を記入して1月に提出します。そして、P1クラスが予備評価を行い、その後、各園長が1月末までに評価して法人に提出します。また、職員同士が互いに評価をする仕組みを構築しています。「和松会 予備評価①」(図表4)は同じ施設内の業種リーダーが同じ業種の一般層を評価します。「和松会 予備評価②」(図表5)は自分の職種以外を全員見る相互評価の仕組みですが、これは、チームワークで行っている仕事について、違う立場からはどのように評価されているのかを知ることができます。他の職種の視点をいれることで、仕事上の議論を深めるねらいがあります。
もう一つの相互評価の仕組みは、「和松会 予備評価③」(図表6)で、評価要素項目について、職場で1番の職員の名前を書いて提出するものです。
これら評価を行ってきて、職員の抵抗感はあまりなく、むしろ普段の仕事ぶりから、「あの職員には、こんないいところもある」ということを伝えるよい機会にもなっています。
そして、2月に最終評価を決めるための協議を行い、3月に最終評価が決定され、4月の昇給と夏の賞与に反映されます。評価結果については、フィードバック面接により園長が総合評価までを伝えるとともに、良かった項目などを伝えることで社員のやる気に繋げています。
人事評価制度の運用における留意点
これまで、人事評価制度は比較的うまく機能しているという実感があります。制度の導入当初に職員への説明をしっかり行ったことが要因の一つです。
職員に対しては評価制度の目的として、「評価制度は、求められる役割・能力をどの程度果たすことができたかを評価します。評価制度は、適切かつ納得感のある処遇の実現と人材育成を直接的な目的としています。これにより『人事制度の目的』を達成することが目標となります」ということを、丁寧に説明しました。
制度導入当初は、評価者によって評価のばらつきが生じましたが、これは評価者の職員を見る眼が育ってくるに従い減っていきました。具体的には、評価者に対し園長等がその評価の根拠について、評価者と一つひとつ確認をしてきたことで、自然と評価基準がそろってきました。特に、園長は、人事評価において法人の全職員をある程度は見ています。手間はかかりますが、評価基準を統一するために、園長が大きな役割を果たしています。
評価結果を給与・賞与に反映
人事評価の結果は、昇給と夏の賞与にのみ反映されます。賞与への反映は、本年の実績では、2.0 ヶ月〜 2.1 ヶ月です。この0.1 ヶ月が賞与に“加算”される部分です。賞与を生活費に充てている方も多く、大きく変動しないように配慮してのことですが、この0.1 ヶ月の違いは、「これからも頑張ろう」「次は頑張ろう」といった意識づけになっています。
なお、人事評価結果だけでなく、資格を取得することで、5,000円〜 8,000円程度の昇給があります。
人事評価制度と職員の育成
人事評価から、個別の育成プランを立てることは、これからの課題ですが、すでに、職員本人からこういう勉強がしたいという要望が出され、それに対して研修のリストを示して、研修参加を促すことは行っています。
特に外部研修については、研修で知識を得ることも大切ですが、そこで他の事業所の考え方を学んだり、参加者同士で関係を作ってくることを求めています。
また、研修派遣だけではなく、例えば将来的に相談員になる可能性がある職員に、相談に関わる業務を少し入れて体験をさせたり、園長のネットワークで地域等に出かけて行く際に同行させたりして、学ぶ機会を意識的に作っています。学びに年齢はありません。例えば、定年再雇用の職員がコミュニティーソーシャルワークで、地域の相談を受けていますが、関連するテーマの研修を受講したりしています。
同法人では、自ら学ぼうとする意欲を持ってもらいたいと考えていますので、人事評価制度の実施や面接の際に、自分はどのような働き方をしたいのか等を表してもらうようにしています。
安心、安全の職場づくり
同法人では、高齢者施設と障害者施設の全園長が集まる、園長会議(施設長会議)を毎週1時間半程度、実施しています。そこでは様々なことを協議していますが、園長には人事管理が大きな仕事だという意識があります。こうした園長間のコミュニケーションが、先の評価の基準の統一にもいい影響を及ぼし、高齢者施設も障害者施設も同じスケールで人事管理することにつながっています。
また、職員が恐る恐る仕事をしても、いい仕事はできないと考えています。たとえば、吸たん等は研修でしっかり学んで確実に実施することや、腰痛予防は自分の身と利用者を守るために大切なので、トランスファーの技術は最初に教えるといったことがあります。職員が安心して、かつ安全に仕事ができる“職場づくり”も人事管理と合わせて重要だと考えています。
本事例の学びどころ
- 評価制度は、職員の育成を図る仕組みであることを職員と共有
人事評価の結果を人材育成に活用することを、職員と共有するためには、しっかりとした説明を繰り返すことも大切です。また評価者と施設管理職が協力して、しっかりと指導に関わるような、制度の運用も注目したい点です
- 職員同士の評価など、独自評価の仕組みを構築
一般的に、評価というと、ついマイナス面を見てしまいがちですが、同法人の相互評価は、プラス面に目を向ける仕組みです。職員同士の理解を促進させる仕組みとして、参考にしていただきたいと思います。
ご担当者から一言
現在の人事評価制度を、約10年続けてきましたが、職員の仕事を見る眼が広がったと思います。この制度を構築して、まだまだ活用しきれていないところもありますが、職員からのアイデアも加えながら、いい制度になっています。福祉施設では介護職が注目されやすいのですが、現場はチームワークの仕事であり、事務職員も栄養職、看護職も大事な仕事を担い、支え合っています。相互評価の仕組みは、さらにチーム力を上げる仕組みとして機能しています。キャリアパス制度を通して、人材育成を強化していますが、キャリアが上がる中で、一人ひとりがどう責任を持てるようになるかが大事だと考えています。
社会福祉法人和松会 常務理事 板倉幸夫様
【参考:静岡県介護事業所キャリアパス制度導入事例】
キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。