キャリアパス要件を取得することはすなわち、キャリアパス制度を整備するということに直結すると「キャリアパス要件について」にて解説しました。
今回はキャリアパス制度の必要性により焦点を当てて解説したいと思います。
キャリアパス制度のおさらい
キャリアパスとは、昇進、昇格までの道筋のことを意味し、より噛み砕くと、職能資格制度(一般企業の人事制度)と言い換えることができます。
国は、この「職能資格制度を整えること」を介護職員の給与をアップするための条件としました。職能資格制度を整備することにより、キャリアパス制度が構築され、その結果キャリアパス要件を満たすことにつながり、その満たし度合いによって処遇改善加算額が上下する、という仕組みです。
では、なぜ職能資格制度が介護業界にとって必要と行政は判断したのでしょうか。
キャリアパス制度を求める理由
行政はなぜキャリアパス制度の導入を求めているのでしょうか。
その理由の1つに、現在の介護業界の離職率、定着率の悪さが挙げられるでしょう。
近年の介護業界の離職率は16.5%と、他産業平均に比べて悪すぎる、ということは決してありません。
しかし、全人口の4分の1、数にして2200万人が後期高齢者になると予想されている2025年問題に向けて、少しでも離職率を減らすことが今の介護業界全体の課題といえます。
キャリアパス制度を整備することは、よりよい職場環境をつくることにつながります。もちろん、その職場環境は介護事業所それぞれにとって異なるものであり、最適な環境をつくることは非常に難しいです。しかし、各事業所にマッチした職場環境を構築し、職員に提示することで、「この職場なら続けたい」と感じる人が増えると考えられます。また、職員と共に考えることで、職員目線での改善点も見えてくるでしょう。
2つ目に、介護業界への就職人数の少なさが挙げられます。
下の図は、厚生労働省が平成26年度に介護業界の人材確保について調査した結果です。
[参考:厚生労働省 平成26年度介護人材の確保について]
一見、介護必要者が増加するにつれて、介護職員も増加していますが、
一方で、介護職員が不足している事業所は増加傾向にあることが分かります。
また、不足している理由は「採用が困難であること」が最も多く、採用に対する制度を変える必要性を感じざるを得ません。
キャリアパス制度を構築することは、現職員のモチベーション向上を促すだけでなく、介護業界への就職を考えている人の将来の道標を照らすことにもつながります。新卒採用、中途採用に関わらず、求職者は「この職場で何が得られるのだろうか」「職場の人はどんな雰囲気なのか」「お給料はしっかりもらえるのだろうか」など、様々な疑問や不安を抱えながら就職活動を行っています。また、より待遇や環境が優れている職場で働きたいということは誰もが思っていることでしょう。優秀な人材を確保するためにも、自身を持ってキャリアパス制度を提示したいですね。
では、現職員や求職者のためにどのようなキャリアパス制度を構築すればよいのでしょうか。
キャリアパスモデルの体系
ここからが本題となります。
「キャリアパス要件について」では、介護職員にとって重要なものは、介護職員としてあるべき基本指針と専門性であるとお伝えしました。
この2点を介護事業所ごとに定めることがキャリアパス制度の構築につながります。
- 介護職員としてあるべき基本指針
介護職員としてあるべき基本指針は以下の5つです。
- 介護職員として自覚と責任ある行動ができる。
- 基本的人権を擁護し、自己決定を最大限尊重し、自立に向けた支援ができる。
- 利用者の理解と利用者・家族との良好な人間関係の確立ができる。
- 組織における役割・心構えの理解と適切な行動ができる。
- 生涯にわたる主体的な自己学習の継続ができる。
[参考:厚生労働省 キャリアパスガイドライン]
- 専門性
]介護職員としてあるべき基本指針を土台に、専門性が求められています。
専門性は大きく経験年数・スキル・情意に分けられます。
経験年数
経験年数によって就くことのできる職位・職務の明記が推奨されています。
経験年数
[参考:厚生労働省 キャリアパスガイドライン
職位
スキル
スキルは社会力・介護力に分類され、それおぞれの目標や評価基準に定めることを推奨しています。
- 社会力
介護事業所内における介護職員の役割・心構えなど社会人・組織人として必要な力をいいます。
- 介護力
介護技術や福祉・介護の知識や利用者への支援に対する理解をしたうえで入所者の人権を 尊重したアプローチができる力をいいます。
情意
情意とは、介護職員の意欲・やる気のことを指します。
毎日の業務行動を、規律性・協調性・積極性・責任性で評価します。
研修体系
各専門性を周知・獲得・強化するための研修制度が各ステップごとに必要です。
キャリアパス制度の具体例
ここまで、キャリアパス制度に関してなぜ必要か、何が必要なのか解説してきましたが、実際に制度を構築するには長い期間、多くの会議、書類の作成等が必要となります。
そこで、苦労の末にキャリアパス制度の構築に成功した事業所を紹介したいと思います。少しでも参考になれば幸いです。
事業所例は、キャリアパス制度取得までの経緯の記事(インタビュー形式)、キャリアパスモデル資料(表形式)に分かれています。
「辞めたくなくなる」環境づくりで離職者が2年連続ゼロに
- 社会福祉法人 愛生会
- 特別養護老人ホーム・通所介護 他
- 職員数108名
「教えること」と「評価すること」を一致させる仕組みを構築
- 社会福祉法人 ふじみ野福祉会
- 特別養護老人ホーム・通所介護 他
- 職員数133名
地域に必要とされる人材育成で人が“集まる”組織をつくる
- 株式会社 グレートフル
- 訪問介護・通所介護 他
- 職員数150名
中期経営計画をキャリア階層ごとの個人目標に
- 社会福祉法人 悠遊
- 通所介護・グループホーム 他
- 職員数150名
多様なキャリアパスを提示し組織の魅力を高める
- 株式会社 若武者ケア
- 訪問介護・居宅介護支援 他
- 職員数82名
職員同士の相互評価でチーム力を上げる
- 社会福祉法人 和松会
- 軽費老人ホーム・特別養護老人ホーム 他
- 職員数170名
管理職の責任と権限を強め人材育成を促進する
- 社会福祉法人 三愛会
- 特別養護老人ホーム・通所介護 他
- 職員数97名
キャリアパスの構築はチームリーダー層の役割と求められる姿の明確化から
- 地域密着型総合ケアセンターきたおおじ
- 地域密着型特別養護老人ホーム・小規模多機能 他
- 職員数58名
→キャリアパス取得経緯 →キャリアパスモデル資料
訪問介護員に明確なキャリアビジョンを
- まごのてグループ 株式会社
- 訪問介護・居宅介護支援
- 職員数40名
→キャリアパス取得経緯 →キャリアパスモデル資料
未経験の若者を育てる従業員40名のキャリアパス制度
- 有限会社 ラ・ポールおとくにケアサービス
- 訪問介護・小規模多機能 他
- 職員数40名
→キャリアパス取得経緯 →キャリアパスモデル資料
等級に応じた評価と育成でモチベーションを向上
- 悠悠シルバーケア福祉会(悠悠有限会社)
- グループホーム・有料老人ホーム 他
- 職員数120名
→キャリアパス取得経緯 →キャリアパスモデル資料
誠実に制度の改良を怠らなければ職員は必ずついてくる
- 社会福祉法人 みずほ厚生センター
- 特別養護老人ホーム・通所介護 他
- 職員数235名
→キャリアパス取得経緯 →キャリアパスモデル資料
【参考:静岡県介護事業所キャリアパス制度導入ガイド】
まとめ
それぞれの介護事業所にマッチした介護職員のあるべき基本指針や専門性を定めることが、キャリアパス要件の取得への近道といえます。
そのためには、自らの事業所を知り、職員を知り、利用してくれている人がどのような事業所を求めているのかを知る必要があるでしょう。
キャリアパス制度の構築をきっかけに、介護事業所の見直しをしてみてはいかがでしょうか。
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キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。