介護事業所にとって、人材の確保、従業員の定着及び成長は経営の安定化を図るうえで大変重要な事です。「介護職員処遇改善加算」はそんな介護事業所にとって大きな加算の一つです。
皆さんの通常の業務において、この加算の算定作業には頭を悩ませる方も多いのでは?と思います。
今回は介護職員処遇改善加算の対象者について、特に職種や雇用形態との関係について説明したいと思います。皆さんの算定作業に少しでもお役に立てればうれしいです。
介護職員処遇改善加算とは
本題に入る前に、介護職員処遇改善加算について、簡単におさらいしたいと思います。平成24年3月に、それまでの介護職員処遇改善交付金が廃止されて、平成24年4月に介護報酬として加算される「介護職員処遇改善加算」が新設されました。さらに、平成29年4月にも区分を追加して拡充されています。
介護職員処遇改善加算の目的等
この加算は低賃金、厳しい労働環境などが原因で離職率の高い介護職を定着させて経営基盤の安定及び介護職員の賃金改善を図ることを目的とするものです。
介護職員処遇改善加算の条件
介護事業所がこの加算を受けることのできる条件は、次のとおりです。
- 介護処遇改善交付金を受けていた頃の賃金より下回らない給与を介護職員に支給すること。
- 介護職員処遇改善加算の一定割以上を介護職員の本給とし支給すること。
介護職員処遇改善加算の区分
平成27年度の介護報酬改定時に加算Ⅰが新設されて、加算区分が4つになりました。平成29年4月には5つになりました。
介護職員処遇改善加算の対象者について
※はたして事務員やパートの介護職は加算の対象となるのでしょうか??
支給対象者の定義
加算対象者は加算対象サービスを直接利用者に提供している介護従事者のみとなります。
雇用形態
上記の定義に当てはまればパートは対象となります。つまり常勤・非常勤は関係なく、登録ヘルパーでも加算の対象となります。
また、直接雇用ではない派遣労働者についても介護職員であれば加算対象となります。派遣元と相談の上、加算分を派遣料金に上乗せすることは可能とされており、この場合については計画書、実績報告書は派遣労働者を含めて作成することとなっています。
加算対象サービス
下表が加算対象となるサービスです。
|
加算Ⅰ |
加算Ⅱ |
加算Ⅲ |
加算Ⅳ |
加算Ⅴ |
訪問介護 、夜間対応型訪問介護 |
13.70% |
10.00 |
5.50% |
加算Ⅲ の 90% |
加算Ⅲ の 80% |
訪問入浴介護 |
5.80% |
4.20% |
2.30% |
||
通所介護、地域密着型通所介護 |
5.90% |
4.30% |
2.30% |
||
通所リハビリテーション |
4.70% |
3.40% |
1.90% |
||
特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護 |
8.20% |
6.00% |
3.30% |
||
認知症対応型通所介護 |
10.40% |
7.60% |
4.20% |
||
小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 |
10.20% |
7.40% |
4.10% |
||
認知症対応型共同生活介護 |
11.10% |
8.10% |
4.50% |
||
介護老人福祉施設 地域密着型介護老人福祉施設 |
8.30% |
6.00% |
3.30% |
||
入居者生活介護、短期入所生活介護 |
|||||
介護老人保健施設 短期入所療養介護(老健) |
3.90% |
2.90% |
1.60% |
||
介護療養型医療施設 短期入所療養介護(病院型) |
2.60% |
1.90% |
1.00% |
加算の対象職種
次の職種が加算の対象職種となります。
ホームヘルパー、生活支援員、児童指導員、保育士、世話人、職業指導員、地域移行支援員、就労支援員、訪問支援員、介護職員
というわけで・・・原則
事務職は対象となりません。他には管理者、サービス提供責任者、ケアマネージャー、医療職も原則は加算対象外となります。しかし、次の場合だと対象となる事もあり得ます。
介護職を兼務している場合
上記で対象にならないとされている職種について、介護職を兼務している場合はどうなるでしょうか?
特に小規模の事業所においては、管理者、相談員、看護職員あるいは事務職が介護職と兼務する場合が多いです。</p
結論としてはサービスごとの指定基準上、兼務することが認められていれば加算の対象とみなされます。
※兼務の場合について
兼務の場合における加算の条件としては、事業サービスごとの指定基準において職種ごと指定基準が定められており、この必要な人員以上に人が配置されており、かつ本来の業務に支障がない程度に介護職をおこなっている場合に限り、直接の介護職員として認められます。
※管理者などについて
また、管理者・サービス管理責任者についても介護に直接従事している場合は加算対象になります。その条件としては次のとおりになります。
〇 訪問系事業所及び共同生活介護・共同生活援助系
介護に直接従事している場合は加算対象になります。
〇 上記以外の事業所
- 管理者
生活支援員などの直接処遇職員として兼務している場合に加算対象となります。しかし、サービス管理責任者を兼務している場合は原則、対象外となりますので注意してください。 - サービス管理責任者
事業サービスごとの指定基準以上の人員が配置されている場合と利用定員が20名未満の場合に生活支援員などの直接処遇職員として兼務している場合に加算対象となります。
加算対象者を誤って算定した場合等について
加算対象者を誤って算定した場合や虚偽の算定をした場合はどうなるのでしょうか?
もし間違って払っていたならば賃金改善額が加算額を下回ることになります。加算の条件は上記でもお話したように賃金改善額が加算分を上回る事が条件のため、当然、その部分を返還することになります。これが虚偽など悪質なものであれば不正請求とみなされ全額返還することになります。
賃金改善の対象者
第1項でもお話ししましたが介護職員処遇改善加算の目的は介護職員の賃金改善です。その加算分はあくまでも賃金として支給することが目的で、職員のためとはいえ、施設の改築や補修などの違う用途で使用はできません。また加算には対象となる職種や事業サービスが明確に指定されています。
しかし、全ての対象者が一律に加算に伴う賃金改善の恩恵を受けることになるのか・・・といえば、決してそうではないのです。
なぜかというと、介護職員処遇改善加算の賃金改善における配分方法の決定は各事業者にあるからです。つまり国から支給された加算を事業所の誰にどのように配分するかは施設長などの管理者に委ねられているということです。
そして各事業所によって、賃金改善の対象に違いが出てきます。
賃金改善の対象に違いが出るという事については、次の事が考えられます。
- 同じ介護職でありながら賃金改善の対象となる場合とならない場合がある。
→経験・資格・役職などによって配分を変える - 介護職だけ重点的に配分がされてしまう場合。
→離職率が高く、多くの人を募集しなければならない介護職は当然、賃金を高めに設定して、少しでも多く入職させる必要があるため。 - 職員に管理職などの家族や親族などがいる場合、これらに重点的に配分する。
このように各事業者の現状や事業により、賃金改善の対象も変わるということ。
つまり、単純に加算の対象者すべてが同じような賃金改善の恩恵を受けられるとは限らないという事です。
賃金改善の問題点
ここでは介護職員処遇加算による賃金の改善によって生じた問題点について話したいと思います。
もちろん、事業者に配分決定権があってはいけないと言っている訳ではありません。その事業所の経営状態も安定している、対象となる職員も日頃の勤務態度が良好で資格取得、研修参加などの資質向上に努めている人などは、管理者等から高く評価がされて、賃金アップに繋がっている人達もいることでしょう。
逆に経営状態がある時期に悪化した場合は、本給に影響して、たとえ加算分があっても、結果的に年収が下がる場合や介護職員同士でも職務内容に違いがあれば、当然、経験・資格・役職などの違いによって加算に差をつけるということもできるので、賃金の差がでてきます。兼務している他職種も配分が少なければ負担だけが大きい事になります。
こうした事で収入が少なかったり、配分に偏りが出る場合は当然、不満が多くでるでしょう。職場の士気にも大きく影響がでてきます。
この賃金改善において一番気を付けなければいけない事は、事前に職員に対して介護職員処遇改善加算の賃金改善の方法やその見込み額について、しっかりと職員に周知することではないかと思います。厚生労働省からも計画書などをもって周知するように指示が出ております。
さいごに
介護職員処遇改善加算と賃金改善についてお話してきました。
加算の算定、賃金改善策の作成、その配分など事業者さまにとって身体も頭も休まる暇がないことでしょう・・・。
特に賃金改善については勤務する職員の生活やモチベーションに大きな影響をもたらすものです。
「人材は宝」だとよく言われます。高齢者に安心安全なサービスを直接提供するのは職員です。この職員を活かすのは、事業者の皆さんのご裁量だと思います。
そんな皆様のお力に少しでもなれればと思います。
みなさんはどうお考えでしょうか?当サイトでは介護事業者の皆さんのお役に立てればと思い、記事を更新しております。ぜひフォロー、シェアしていただければ嬉しいです。
なお、ご意見、質問等がありましたらコメントなどしていただければと思います。