高齢社会の中で、介護事業にビジネスチャンスを見出している方、その中でも訪問介護事業開業を考えている皆様。
訪問介護事業開設の際の手順や留意点に関して、しっかりと理解はできていますでしょうか。今回の記事では、訪問介護開設の際に知っておくべきポイントに関して詳しくご説明していきます。
一読してビジネス成功に役立ててください。
訪問介護事業開設・開業の前に
この章では、訪問介護事業に関する基礎的なことを説明します。
訪問介護とは
訪問介護とは、ご利用者が在宅で自立した日常生活を送れるように支援を行います。介護福祉士などの有資格者が、訪問介護員として、要介護者・要支援者の自宅を訪問し提供する介助サービスです。
介助内容には、入浴・食事・排泄などの身体介助と、掃除・洗濯・調理などの生活援助があります。
また、通院時の移動サポートなども行います。
訪問介護事業が他の介護事業と異なる点は、入所や通所施設とはサービス形態が異なるので、大規模な設備や広いスペースを用意する必要がないことです。
そのため、建設費及び施行費等がかからないため、初期投資が少なくて済み開業しやすいとされています。自宅の一角を、訪問介護事業所として開業している方もいらっしゃいます。
訪問介護事業には、介護保険に基づく事業ですが、障害者総合福祉法に基づく居宅介護事業という同じようなサービスがあります。
訪問介護事業開設・開業の手順
この章では、訪問介護事業の開設の手順を説明します。
法人の設立
訪問介護事業を行うには、法人を設立する必要があります。法人形態には、株式会社・合同会社・NPO法人・社会福祉法人・医療法人があります。
各法人によって設立機関や、費用が異なりメリット、デメリットがあります。
今回は、医療法人を例に、訪問介護事業を始めるまでの流れについて説明したいと思います。
医療法人の設立の流れは以下の通りです。
- 医療法人化の意思決定
- 医療法人設立説明会への参加
- 医療法人設立相談・必要書類の収集
- 医療法人設立申請書原案提出(都道府県)
- 事前審査
- 医療法人設立申請書提出(道府県)
- 設立認可
- 登記申請(法務局)
- 登記完了届提出(都道府県)
- 訪問介護事業開始申請
一般的に医療法人の設立の認可が下りるまでには約6ヵ月かかります。
すでに法人格をお持ちの場合は、「介護保険法に基づく訪問介護、介護予防訪問介護事業」という文章等が事業目的欄に入っているか確認してください。
事務所の設立
法人の設立が認可されたら、訪問介護事務所を設立しましょう。
事務所(事務室)は、訪問介護事業に必要な設備として定められています。賃貸借契約時には、契約者は法人名で行うことと、用途が「事務所」となっていることにご注意ください。
事務所の明確な区画は定められていませんが、事務作業を行うのに適しスペースが必要であり、利用申し込みの受付や相談に乗るスペースも必要となります。
相談スペースは、パーテンションを設置するなどプライバシーに配慮しましょう。
訪問介護事業所とそれ以外の事業を併設する場合は、事務スペースを別々にする必要があります。
また、アパートやマンションの一部屋を賃貸した場合は、トイレを事務所の「感染予防の手洗い設備」として共有が可能です。
しかし、ビルの一室を借り、ほかのご利用者との共有トイレの場合、「感染予防の手洗い設備」としての認可が必要になるかもしれません。
自宅に事業所を設置する場合は、管轄の行政区によって異なりますが、住宅スペースと事業所スペースが区切られていることが必要とされる場合があります。
人員の確保
事務所が設置できましたら、次は訪問介護事業を担う人員を確保しましょう。
人員に関しては「訪問介護事業の開設の手順」で詳しく述べますが、以下の人員が必要です。
- 管理者
- 訪問介護員
- サービス提供責任者
人員は最終的に雇用できれば問題ありませんので、申請段階では雇用契約書を締結してください。
事務所備品の準備
次に、事務所備品の準備が必要です。
以下のような備品が必要で、申請段階で「いつでも事業開始可能な状態」にあらねばならず、確実に準備を行いましょう。
- 机
- 椅子
- パソコン
- 複合機プリンター
- 相談業務用テーブル、椅子
- 消耗品
- 電話、FAX
- 書棚
- 金庫
- 自動車や自転車
- タイムカード
また、衛生に関する備品として、次のようなもの等が必要です。
- 洗面台
- 液体せっけん
- 消毒液
- タオル
指定申請書類の準備
訪問介護事業を開始するには、指定の申請書類を提出し認可を受ける必要があります。
そのための書類を準備しましょう。必要な書類は以下の通りです。
- 訪問介護・介護予防訪問介護事業者の指定に関わる記載事項
- 指定居宅サービス事業者、指定介護予防サービス事業者申請書
- 添付書類
詳細な書類内容は後述します。
指定申請書類は煩雑なため代行サービスの利用も考えましょう。
指定申請書類の提出
指定申請書類が準備できましたら、開設する事業所の所在地を管轄する行政区の配置する福祉事務所に提出します。
分からない場合は、事業所の所在地の近くの役所に問い合わせるか、管轄自治体のサイトで確認してください。
指定申請料は自治体で異なる場合があります。相場は2~3万円です。
指定を受け開業
申請から約30日で審査が行われ、認可されたら指定を受けます。
指定がされたら指定業者として公表されると共に、事業が開始できます。
訪問介護サービス事業者指定申請に必要な書類
ここでは、指定申請に必要な書類の一覧を紹介します。
- 指定申請書
- 訪問介護・介護予防訪問介護事業所の指定に係る記載事項
- 定款の写し
- 登記事項証明書(3ヵ月以内のもの)
- 欠格事由に該当していない旨の誓約書
- 土地・建物の賃貸借契約書等の写し
- 事業所の平面図
- 事業外部・内部の写真
- 管理者・サービス提供責任者の経歴書
- サービス提供者責任者の資格証の写し
- 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
- 就業規則
- 訪問介護員の資格証明書
- 運営規程
- 苦情を処理するための措置の概要
- 申請法人の資産証明書(直近の決算書など)
- 収支予算書
- 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
- 介護給付費算定に係る体制等状況一覧表
- 損害賠償保険証の写し
- 雇用契約書
- 関係法令を遵守する旨の契約書
- 組織体制図
- 重要事項説明書
※以上、指定申請担当窓口より提出を求められた書類の例です。
訪問介護事業の開設要件
この章では、訪問介護事業開設の要件の詳細について説明します。
法人
訪問介護事業を開設するには法人格が必要となります。法人格には、株式会社・合同会社・NPO・社会福祉法人・医療法人などがあります。
また、事業目的欄に「介護保険法に基づく訪問介護、介護予防訪問介護事業」の文言が明記されている必要があります。
指定基準を満たしていること
訪問介護事業では、人員・設備・運営の3つの分野での基準を満たしていることが求められます。
人員基準
管理者
事業所の責任者で、もっぱら管理職務に従事する、常勤者1人が必要となります。
ただし、職務上支障がなければ、同じ事業所内の他職務(サービス提供責任者)や、同じ敷地内の他事業所の職務との兼務が認められます。 資格は必要ありません。
サービス提供責任者
常勤職員でもっぱら訪問介護業務に従事する者のうちから、1人以上のサービス提供責任者を配置する必要があります。 サービス提供責任者の資格要件は、次のいずれかの要件を満たすことが必要です。
- 介護福祉士
- 実務者研修修了者
- 介護職員基礎研修課程修了者
- 訪問介護員養成研修1級課程修了者
- 訪問介護員養成研修2級課程修了者で3年以上の介護業務従事経験者
- 看護師または准看護師
(訪問介護員養成研修2級課程修了者によるサービス提供責任者は経過措置であり、報酬減算となります)
ただし、ご利用者の人数が40人を超えるごとに、1人以上追加配置する必要があります。
また、40人を超える場合は常勤換算での計算も可能となります。
常勤換算方の場合、以下の配置が必要です。
- ご利用者数÷40(少数第1位を切り上げ)以上配置
- ご利用者数が40~200人の場合は、計算した数より1引いた以上の人員が必要。
- ご利用者数が200人~の場合、計算した数の2/3以上の人員が必要
さらに、2015年から特例が加えられ、次の全要件を満たした事業所は、ご利用者数が50人または端数を増すごとに1人人員が必要とされます。
要件
- 常勤サービス提供責任者3人以上配置
- サービス提供責任者業務を主とする従事者を一人以上配置している
(訪問介護員としてのサービス提供時間、月30時間以内)
- サービス提供責任者が効率的に業務を行なうことができる
訪問介護員
常勤換算で2.5人以上配置する必要があります。
訪問介護員の資格要件は以下を満たすことが必要です。
- 介護福祉士
- 介護職員基礎研修課程修了者
- 訪問介護員養成研修1級または2級課程修了者
- 看護師または准看護師 等
設備基準
訪問介護事業所の設備基準が法令にて定められています。
事務室や備品等は、必ずしも事業者の所有物である必要はなく、貸与であっても問題ありません。基準を簡単に説明すると、「事務スペース」と「相談スペース」が必要ということです。
ただし、それぞれの部屋の利用目的が果たせることと、区切りがあれば問題ありません。
それぞれに必要な広さは、常勤職員が3~4名の場合であれば、事務スペースがおよそ畳6枚分の広さ、相談スペースはおよそ畳3枚分の広さとなります。
また、事務所内の設備について、感染症の予防のために「手洗いの設備」設置が求められます。通常、住居用のマンションやアパートを賃貸すれば、「洗面所」といった水道設備があらかじめ備え付けられているはずですので問題ないことが多いです。
マンションの共用トイレなどの場合は、「感染予防のための手洗い設備」としての認定を受ける必要があります。
運営基準
運営基準は多く、細かく定められています。
大きく分けると、訪問介護サービスに関する基準と業務運営に関する基準があります。
いくつかピックアップして紹介したいと思います。各行政区によっても基準が異なりますので、サイトなどで確認してください。
訪問介護サービスに関する基準
- 利用申込者に対するサービスの提供内容および手続きの説明および同意
→利用申込者に対して運営規定の概要、必要事項説明書の説明を行い同意、交付を行うことです。 - 要介護認定の申請に係る援助
→被保険者の要介護認定にかかる申請について、利用申込者の意思を考慮し、必要な協力を行うことです。 - サービス提供の記録
→サービスを提供した際は、サービス提供日・内容について、居宅サービス計画に記載した書面またはこれに則る書面に記載することです。
業務運営に関する基準
- 利用料などの受領 →法定代理受領サービスの場合、そのご利用者からご利用者負担分の支払いを受けます。
- 介護などの総合的な提供 →入浴、排せつ、食事などの介護または調理、洗濯などの家事を総合的に提供し特定の援助に偏らないことです。
- 苦情処理 →ご利用者や家族からの苦情に素早く・適切に対応することです。 実地指導により改善命令がだされたのち、改善が見られない場合は事業指定を取り消されてします恐れがあります。そのため、スタッフへの基準の周知や、日々の基準と実態との点検が必要です。
訪問介事業開設にいくらかかる?
この章では、訪問介護事業の開設にかかる費用の説明を行います。
会社設立費用
会社設立費は法人格によって異なりますが、10~30万円です。NPO法人は、設立費用はかかりませんが、書類作成などが煩雑なので代行サービスを利用する場合も多いです。代行サービスの相場は10~20万円です。
物件取得費
約50万円(契約料金+3ヵ月分家賃、駐車料金)
備品費等
40万円
自動車
150万円
人件費(約3ヵ月分)
常勤1名55万円
非常勤1名25万円
求人広告費
約10万円
指定申請手数料
約3万円
その他(交通費、通信費など3ヵ月分)
約20万円
指定申請手数料は、各都道府県・自治体によって異なります。詳細は各都道府県などのサイトを確認してください。
最低でも約300万円必要となりますが、訪問介護事業は設備投資費用があまりかからない一方で、訪問介護員が多く必要であることから人件費がかさむ傾向にあります。
また、現在、介護業界は人手が集まりにくくなっているので、人員確保のための求人広告費等も同時にかさむ傾向にあります。このことを鑑みると、800万円は準備しておけば当面の運営は安心して行えるでしょう。
訪問介護事業開設・開業の資金調達方法
この章では、開業にあたり必要となる、資金の調達先に関しての情報を説明します。記載されている情報以外にも調達方法はありますので、ご注意ください。
公的な融資
まず、公的な融資を行っているところについて説明します。
日本政策金融公庫
新規介護事業を行う際に大きな融資を受けやすいのが、日本政策金融公庫です。政府が100%出資しています。
そのため、新規事業や会社の開業資金に比較的利用しやすくなっています。
また、無担保・無保証人でも融資が受けやすくなっています。
ただし、指定の様式での事業計画書を書く必要があり、計画内容によっては融資額が低くなることもあります。
新創業融資制度
新創業融資制度は、ソーシャルビジネス支援資金など定められた融資を利用する際に扱うことのできる無担保・無保証人の特例措置です。融資の要件は以下のようになっています。
創業の要件
- 新たに事業を始める方
- 事業開始後税務申告を2期終了していない方
雇用創出等の要件
- 雇用の創出を伴う事業を始める方
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方
- 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援事業を受けて事業を始める方
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
などの一定の要件に該当する方
(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)
自己資金要件
- 新たに事業を始める方
- 事業開始後税務申告を1期終了していない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認可能な方
ただし、「現在お勤めの会社と同等の業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認知特定創業支援事業を受けて事業を始める方」等に該当する場合は、本要件を満たすものとします。
新規開業資金
新規事業を始める方、事業開始後の資金を要する方向けの資金融資です。
要件としては、「雇用の創出を伴う事業」「現行の業種と同事業を始める方」などがあります。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
女性、若者/シニア起業家資金
女性または35歳未満か、55歳以上の方で、 新事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方が対象の融資です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
なお、公的融資には、都道府県や市町村などの自治体が保証費用を補助するものもあります。
日本政策金融公庫の融資枠と比較すると小額ですが、比較的に融資を受けやすいメリットがあります。詳しくは、各自治体、都道府県のサイトを参照ください。
銀行等からの融資
介護事業に対して各銀行が貸し付けを行っています。近くの銀行やなじみのある銀行が相談・貸し付けを行っていないかを確認してみてください。
介護事業専門に融資を行っていなくても、現在介護事業は伸び盛りの事業のため、融資したいと考えている銀行が多いです。
補助金や助成金を受ける
厚生労働省や各自治体から、開業や人員の採用時に利用できる補助金や助成金があります。
訪問介護事業開業のよくある失敗例
この章では、訪問介護事業での失敗例を挙げますので、参考にして失敗しないようにしてください。
訪問介護員の人員配置
初期費用を少しでも安く抑えようと人件費を低くするため、結果的に訪問介護員の人員配置が基準よりも少なくなってしまうことがあります。
また、人員を集めようとしても、なかなか応募が来なかったり採用にいたらなかったりで、人手不足のままになり、そして、認可が保留・取り消しになってしまうということが起きます。
収益が上がらない
ご利用者がなかなか獲得できず、また訪問回数も増えず、なかなか黒字に転じるまでの収益が見込める状態にならないことが起きます。
介護事業の報酬は、サービス提供から3ヵ月後に入ってきます。開業当初から多くのご利用者を獲得することは難しく、それまでに出費がかさみ経営破綻してしまうことも十分ありえます。
訪問介護事業開設の留意点
この章では、訪問介護事業を開設する上での留意点を説明します。
訪問回数と収支
訪問介護事業は、訪問回数を上げなければ利益を出すことができません。
2017年度介護事業実態調査では、訪問回数が400回を超えると収支がプラスに転じています。
営業日を月に22日で計算すると日に約18回です。訪問介護員が3人とした場合、1人の訪問介護員が6回の訪問を安定的に実施できている状態となります。
この状態に至るまでは収支が厳しい状態であるとも言えるため、それまでの間の資金が必要ということになります。
2018年に介護報酬改定
介護事業は、中小企業や全産業の利益率と比較すると高めの水準にあると指摘されており、訪問介護の利益率は介護事業の中でも高い水準にあります。
しかし、それが故に2018年の介護報酬改定では、他産業ならびに他介護事業との適正化を図るために、報酬がマイナス改定になる恐れがあります。介護報酬改定の動向に注意して、開業の計画を立てて下さい。
ファクタリングサービス利用可能
介護報酬はサービス実施から3ヵ月後に入ってくるのが通常ですが、ファクタリングという資金調達方法を利用することで、全額ではありませんが、1週間以内の報酬受け取りが可能となります。
残りの報酬は3ヵ月後に振り込まれます。このサービスを利用することで、ご利用者数を開業当初から増やすのが困難な訪問介護事業を安心して継続・展開していきやすくなりますので、ご検討してみてください。
まとめ
社会の高齢化に伴って、在宅での介護ニーズは増えています。
しかし、訪問介護事業者は増えておらず、地域によっては減少しています。理由の多くは、訪問介護員がなかなか集まらないことにあります。
この記事を読んで、訪問介護員のたくさん集まる事業所運営を行ってもらえる方が、増えることを望みます。そして、高齢化にまつわる日本の課題を、解決に導いていただきたいと思います。
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