突然ですが、介護関係者の方にお聞きします。
キャリアパス、理解されていますか?
介護関係者にとってキャリアパスといえば、処遇改善加算取得に必要な「キャリアパス要件」や、介護職員のための「キャリアパス制度」が思い浮かぶのではないでしょうか。
ご覧になっている方の中には
キャリアパス要件ってどうしたら満たせるのか…?
キャリアパス制度ってなんで必要なのか…?
うちの事業所はどんなキャリアパス制度を導入すればいいのか…?
もっと質の良いキャリアパス制度を構築するにはどうせればいいか…?
このような疑問に惑わせれている人がいるのではないでしょうか。
今回はそんな方々のために、分かりやすく、実践につながるキャリアパス要件、キャリアパス制度を解説したいと思います。
[2017年1月30日追記]
平成29年度より新加算が増設され、加算区分は5つになることとなりました。それに伴いキャリアパス要件Ⅲが新しく定められましたので、「キャリアパス要件Ⅲ」にて詳しく解説しております。平成29年度における全体的な変更を知りたい方は「処遇改善加算について」をご覧ください。
キャリアパス要件とは
まず、キャリアパス要件とは何者なんでしょうか。
キャリアパス要件とは、平成24年度より施行された介護職員処遇改善加算という制度を取得するための条件となります。
平成27年度の介護報酬改定から加算Ⅰが新設され、キャリアパス要件Ⅰとキャリアパス要件Ⅱを共に満たすことが条件となりました。
キャリアパス要件には2種類あり、以下のように定められています。
キャリアパス要件1
次のイ、ロ及びハの全てに適合すること。
イ 介護職員の任用の際における職位、職責又は職務内容等に応じた任用 等の要件(介護職員の賃金に関するものを含む。)を定めていること。
ロ イに掲げる職位、職責又は職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の 臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。
ハ イ及びロの内容について就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備 し、全ての介護職員に周知していること。
[参考:厚生労働省 平成27年度 介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について]
このキャリアパス要件1、簡単に解説すると
事業所内にて役職を定め、役職ごとの職務内容や責任、必要な能力やスキルを明確にし、昇進や昇給、社員の育成などの際に活用する
といえるでしょう。
もっと簡略化すると、
職能資格制度を定めること
と言い換えることができます。
職能資格制度とは、従業員の能力や熟練度合によって役職を定め,その等級に応じた待遇を与える人事制度のことを意味します。
イメージとしては、一般企業を思い浮かべてみてください。
一般企業では、平社員からスタートし、係長、課長、部長…と昇進していきます。
そのためには、企業ごとに設定された能力やスキル、資格を身につける必要があります。
このような従業員の昇進、昇格への道筋をキャリアパスと呼び、この一連の人事制度を職能資格制度といいます。
キャリアパス要件の取得には、このキャリアパス制度の理解が必須となるでしょう。
しかし、一般企業のようなキャリアパス制度が、必ずしも介護事業所のキャリアパス制度に当てはまるということではありません。
では、介護事業所にとってのキャリアパス制度とは何を意味するのでしょうか。
後ほど解説したいと思います。
「キャリアパス要件1とは」にてキャリアパス要件1をよりわかりやすく解説しています。
キャリアパス要件2
次のイ及びロの全てに適合すること。
イ 介護職員の職務内容等を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資 質向上の目標及び一又は二に掲げる具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること。
一 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等を 実施(OJT、OFF-JT 等)するとともに、介護職員の能力評価を行うこ と。
二 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇 の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。
ロ イについて、全ての介護職員に周知していること。
[参考:厚生労働省 平成27年度 介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について ]
キャリアパス要件2の条文は上記の通りです。
実現が難しい箇所としては、資質向上のための目標、資質向上のための計画、能力評価、そして研修計画に関してではないでしょうか。
こちらに関しては、厚生労働省の処遇改善に関するQ&Aに記載があるので紹介したいと思います。
- 資質向上のための目標
Q. 要件2の「資質向上のための目標」とはどのようなものが考えら れるのか。
A. 「資質向上のための目標」については、事業者において、運営状況や福祉・介護職員のキャリア志向等を踏まえ適切に設定されたい。 なお、例示するとすれば次のようなものが考えられる。
1. 利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するために、福祉・介護職員が技術・能力(例:介護技術、コミュニケーション能力、協調性、 問題解決能力、マネジメント能力等)の向上に努めること。
2. 事業所全体での資格等(例:介護福祉士、介護職員基礎研修、居宅介 護従業者養成研修等)の取得率向上
- 資質向上のための計画
Q. 要件2の「具体的取り組み」として、「資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等を実施(OJT、OFF-JT 等)するとともに、福祉・介護職員の能力評価を行うこと」とあるが、そのうち「資質向上のための計画」とはどのようなものが考えられるのか。
A. 「資質向上のための計画」については、計画期間等の定めは設けておらず、必ずしも賃金改善実施期間と合致していなくともよい。 また、当該計画については、特に様式や基準等を設けておらず、事業者の運営方針や事業者が求める福祉・介護職員像及び福祉・介護職員のキャ リア志向に応じて適切に設定されたい。また、その運用については適切に取り組んでいただくとともに、無理な計画をたてて、かえって業務の妨げにならないよう配慮されたい。
- 能力評価
Q. 要件2の「福祉・介護職員の能力評価」とは、どのようなものが考えられるのか。
A.個別面談や、自己評価に対し先輩職員・サービス担当責任者・ユニット リーダー・管理者等が評価を行う手法が考えられる。なお、こうした機会を適切に設けているのであれば、必ずしもすべての福祉・介護職員に対して評価を行う必要はないが、福祉・介護職員が業務や能力に対する自己認識をし、その認識が事業者全体の方向性の中でどのように認められているのかを確認しあうことは重要であり、趣旨を踏まえ適切に運用していただきたい。
- 研修計画
厚生労働省は次のような研修事例を紹介しています。
研修テーマ 対象者 ヒヤリハット事例への対応 全職員 基本的な待遇・マナーの理解 初任職員 虐待防止や人体援護に関する理解 全職員 基本的な防火対策の理解 全職員 感染症への理解 全職員 法令順守への理解 リーダー職員 利用者に対するアセスメントの実施 リーダー職員 ・採用1~2年目の福祉・介護職員に対し、3年以上の経験者を担当者として定め、日常業務の中で技術指導・業務に対する相談を実施する。
・月1回のケアカンファレンス、ケース検討の実施(希望者)
・他事業者との交流の実施(年3回)
・都道府県が実施する研修会への参加(希望者)
[参考:福祉・介護人材の処遇改善事業に係るQ&A(追加分vol.2) ]
上記のQ&Aにも記載してあるように、様々な事例はあるものの、それぞれの事業所に有用な目標や計画、研修を練ることが重要であるといえます。
はじめは、こちらの事例や後に記載する「キャリアパス制度の具体例」と同じことを実践してみることも必要とは考えられますが、利用者のためにも、職員のためにも、いずれはその事業所独自の制度を構築したいですね。
キャリアパス要件3
キャリアパス要件Ⅲについて厚生労働省は以下のように示しています。
経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
例によって、こちらを簡単に説明すると
職員の昇進・昇給要因として、勤続年数や保有資格などの具体的なルールを定めること
と解釈できます。
平成27年度の改正ではキャリアパス要件ⅠとⅡに焦点が当たり、キャリアパス制度という昇進・昇格までの道筋を示すことや、それに対し必要な研修制度の策定や実施が促されていました。
今回、キャリアパス要件Ⅲが上記のような文言となった理由としては、一職員として具体的に何をどこまですれば昇格・昇給できるのか、といったことが事業所ごとに不明瞭でありバラバラであったことが考えられます。
例えば、何年働けば昇格対象となるのか、どのような資格を取得すれば昇給できるのか、現場スキルがどの程度に達すれば認められるのか等です。
上記、ご理解いただければわかるとは思いますが、キャリアパス要件Ⅲはキャリアパス要件Ⅰの補助的な役割を担っています。キャリアパス要件Ⅰで定めた職能資格制度に具体的な数字を付与していく、といった形になりますね。
このキャリアパス要件Ⅲを定めることが、新加算区分を算定するためには必要となりますので、事業者の方々にはぜひ理解していただきたい制度となっています。
なお、処遇改善加算の提出期限は通常2月末となっていますが、今回の改正を受けて多くの指定権者では3月末に期限を延長しています。恐らく、通達かそれぞれのホームページにて告知されていると思われますので、確認してみてください。
キャリアパス制度とは
次に、キャリアパス制度について解説したいと思います。
専門性
これがキャリアパス制度における、一般企業と介護事業所との大きな違いです。
介護の現場では、それぞれの職員に専門性が問われます。
介護職員の専門性には、役職の有無に関わらずバラつきがあり、それらを正当に評価することもキャリアパス制度の1つといえるでしょう。
(参考:厚生労働省 キャリアパスガイドライン)
そして、キャリアパスを定めるにあたり重視すべきことは、基礎となる介護職員とし
ての基本指針を念頭に、その上で年数やスキル、情意(やる気、意欲)を積むことです。
(参考:厚生労働省 キャリアパスガイドライン)
では、キャリアパス制度を定めることは、介護職員や介護事業所にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
キャリアパス制度の必要性
- 求職者の将来像のイメージ化
キャリアパス制度を整備することは、求職者が安心して就職できる土台をつくることに繋がります。
求職者にとって、「この職場で働きたい」と感じてもらうためには、職場での自分の将来像を思い描けることが重要となります。
そのためには、求職者が進むであろう道筋を提示することが必要です。
キャリアパス制度は、求職者の不安をなくすための道具となり、事業所のイメージアップにも繋がりでしょう。
[参考:静岡県ホームページより抜粋]
- 現介護職員の定着
キャリアパス要件を満たすためには、いま要求されている仕事、次のステップに進むための能力やスキルが明示することが条件となります。
就職後には、否が応でも目の前の業務に追われることになることが予想され、自ら目標を設定し業務をこなすことは困難であるといえます。
このような状況下では、職員のモチベーションは低下しますし、働きづらい職場となってしまいます。
しかし、キャリアパス制度の存在は、職員の目標を常に示してくれます。
キャリアパス制度があることで、職員のやるべきことが定まり、結果的に、就職時に思い描いていたイメージを現実にすることができます。
この積み重ねは職の定着につながると考えられます。
[参考:静岡県ホームページより抜粋]
「キャリアパス制度の具体例と行政が求める理由」にてキャリアパス制度に関する詳しい解説と事業所事例の紹介をしています。
キャリアパス制度導入事例
では、実際にキャリアパス要件を取得するにはどうすればよいのでしょうか。
キャリアパス制度の構築はもちろん、職員への周知や提出書類の作成など、やらなければならないことは沢山あります。
そんな悩みを持つ方のために過去にキャリアパス制度を導入し、成功を収めた事業所を紹介したいと思います。
- 「辞めたくなくなる」環境づくりで離職者が2年連続ゼロに
社会福祉法人 愛生会
特別養護老人ホーム・通所介護 他
職員数108名
- 「教えること」と「評価すること」を一致させる仕組みを構築
社会福祉法人 ふじみ野福祉会
特別養護老人ホーム・通所介護 他
職員数133名
キャリアパス要件の届出の記入方法
処遇改善加算を取得するためには、介護職員処遇改善計画書を提出しなければなりません。その際、キャリアパス要件についても記入する必要があります。
「キャリアパス要件の届出の書き方とは」にて、キャリアパス要件の記入方法について詳しく解説しています。
介護職員キャリアパス導入促進事業
多くの地域では、介護事業所のキャリアパス形成のために補助金を交付しています。
キャリアパスの導入を補助することにより、介護職員の育成を図ると共に、職員の定着促進につなげることを目的とし、東京都では最高200万円が補助されます。
詳しくは各地域のWEBページをご参考ください。
まとめ
キャリアパス要件について、ご理解いただけたでしょうか。
キャリアパス制度を導入することが、介護事業所と介護職員それぞれのメリットになることが伝わったなら幸いです。
加算額取得のためだけでなく、現職員や求職者、職場環境改善のためにもキャリアパス制度を導入してみてはいかがでしょうか。
キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。