介護事業者の皆様に間でいつも話題に上がる介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加算)。
業界全体で人材の定着が問題視されている中、従業員の定着はとても重要です。
従業員満足度向上のためにも、しっかりと加算を算定しておきたいものです。
今回の記事では2015(平成27)年の介護報酬改定における、処遇改善の算定に必要なキャリアパスの要件について詳しくご説明していきます。
ぜひ、今後の運営にお役立てください。
キャリアパス要件とは
概要
2009(平成21)年に他の業種との賃金格差を是正し、介護職員の雇用を安定させることを目的に介護職員処遇改善交付金が設立されました。
処遇改善交付金は、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して介護職員(常勤換算)一人当たり月15,000円相当額を交付するといったものでしたが、2011(平成23)年に交付金は打ち切りとなり代わりにこれを継続する形で、2012(平成24)年から新たに介護報酬に創設された制度が処遇改善加算です。
キャリアパス要件とは、処遇改善加算を取得するための条件です。
2015(平成27)年の改正では加算Ⅰが新設され介護職員一人当たり27,000円の相当の加算が上乗せされるようになりました。
目的・背景
介護業界を取り巻く問題が介護職員の不足です。
今後さらに高齢者人口が増加し、職員の不足はますます深刻化すると言われています。
背景には、介護職の賃金が全産業平均賃金に比べ安いことや、仕事の多忙さからモチベーションを維持できず離職してしまうことが多いというものが考えられます。
介護職員のバラツキのある専門性に対し、正当な評価や介護職員の資質の向上を図り、その役割に応じた賃金体系を確立することで、やりがいのある職場環境を実現するためには、キャリアパス制度の導入が不可欠です。
キャリアパス制度導入促進を目的に、キャリパス要件が処遇改善加算の要件として定められました。
平成27年改定における処遇改善加算
2015(平成27)年の改定から再度改正が行われ、2017(平成29)年4月からは加算区分が変更となり、新加算区分Ⅰを算定するための要件としてキャリアパス要件Ⅲが設けられました。本記事では2015(平成27)年時点のキャリアパス要件2種類のみについて説明いたします。
2015(平成27)年で改正が提示されている、「平成27年3月31日付、老発0331第34号介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について」を参考にしてください。
処遇改善加算(Ⅰ)の新設
2015(平成27)年の介護報酬改定から従来の加算に加え処遇改善加算(Ⅰ)が新設されました。
処遇改善加算(Ⅰ)とはキャリパス要件2種類と職場環境等要件の全てを満たしたことを条件に介護職員一人当たり27,000円相当の加算が上乗せされるというものです。
これまで加算(Ⅱ)で15,000円相当の加算が得られる区分を取得していた事業所は、処遇改善加算(Ⅰ)を取得することで月額12,000円相当の上乗せ分が得られるのです。
処遇改善加算は、いずれかの区分で取得した場合は、当該区分以外の処遇改善区分加算は取得できませんので注意してください。
処遇改善加算区分の変更
処遇改善加算Ⅰが新設に伴いこれまでの処遇改善加算Ⅰ Ⅱ Ⅲは、それぞれ処遇改善加算Ⅱ Ⅲ Ⅳに変更されました。
処遇改善加算区分についてそれぞれの算定要件を記載しますと、
処遇改善加算(Ⅰ) 介護職員一人当たり27,000円相当加算
キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ及び職場環境等要件をすべて満たす対象業者
処遇改善加算(Ⅱ) 介護職員一人当たり15,000円相当加算
キャリアパス要件Ⅰ又はキャリアパス要件Ⅱのどちらかを満たすことに加え、職場環境
等要件を満たす対象業者
介護職員処遇改善加算(Ⅲ) 介護職員処遇改善加算(Ⅱ)×0.9
キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ又は職場環境等要件のいずれかを満たす対象
業者
介護職員処遇改善加算(Ⅳ) 介護職員処遇改善加算(Ⅱ)×0.8
キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ及び職場環境等要件のいずれも満たしていない対象業者
となります。
職場環境等要件の改正点
以前は、定量要件と呼ばれていたものが、今回の改正で職場環境等要件と名称が変更されたとともに加算区分によって届出のできる改善の実施時期が分けられました。
処遇改善加算(Ⅱ)(Ⅲ)では
平成20年10月から届出を要する日の属する月の前日までに実施した処遇改善(賃金改善を除く。)の内容を全ての介護職員に周知していることをもって、上記を満たしたものとする。
とあるのに対して処遇改善加算(Ⅰ)では
平成27年4月から届出を要する日の属する月の前日までに実施した処遇改善(賃金改善を除く。)の内容を全ての介護職員に周知していることをもって、上記を満たしたものとする。
となっており、加算Ⅰを算定するには平成27年4月以降に賃金改善以外の処遇改善を実施しなければならないのです。
キャリアパス要件の種類
処遇改善加算の要件には賃金体系等について定められたキャリアパス要件Ⅰと介護職員の資質の向上等について定められたキャリアパス要件Ⅱがあります。
新設された加算Ⅰを取得するためにはその両方を満たす必要があります。
キャリアパス要件Ⅰ
キャリアパス要件Ⅰを満たすためには 次のイ、ロ、ハのすべてに適合することが求められます。
イ 介護職員任用の際における職位、職責又は職務内容に応じた任用等の要件(介護職員賃金に関するものを含む。)を定めていること
ロ イに揚げる職位、職責又は職務内容に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。
ハ イ及びロの内容について就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。
キャリアパス要件Ⅰについて具体的に説明していきます。
職位とは、仕事をするうえで地位を示すもので介護では施設長や統括リーダーさらには各種リーダーといったものが考えられます。
職責とは、職務上果たすべき責任で、職位に応じて決められることが多いです。
また、職務上の責任と同時に権限が与えられることがほとんどで、職位が上がることで責任と権限が増し、施設全体の方針を決める会議に出席し意見を反映できるとか部下の配置や勤務シフトを決める等、より高度な職務に従事することで、そのモチベーションを高めることができます。
任用等の要件とは、介護福祉士等取得資格、経験年数、介護技術、研修受講歴、 過去に従事してきた職務内容等、多様な要件が考えられますが、現実的にこれらの要件が相互に関係する形になるはずです。
また、有期雇用契約を締結している職員やパートタイム職員を期間の定めのない正規雇用職員として雇用するに当たっての要件を定めることもこれに当たります。
キャリアパス要件Ⅰは介護職員の資格・経験・技量等に応じた地位を与え、それに見合う賃金体制を書面で整備し、すべての介護職員に周知しなさいというものです。
キャリアパス要件Ⅱ
キャリアパス要件Ⅱを満たすには次の2点に該当する必要があります。
イ 介護職員の職務内容を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標及び一又は二に掲げる具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の機会を確保していること。
一 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等を実施(OJT,OFF-JT等)するとともに、介護職員の能力評価を行うこと。
二 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。
ロ イについて、すべての介護職員に周知していること。
キャリパス要件Ⅱについて説明します。
介護職員と意見を交換しとは、可能な限り多くの介護職員の意見を聞く機会を設けることが望ましいとされています。
必ずしも面談・面接をする必要はなく、メールでもよいとされています。
資質向上の目標の具体例としては「厚生労働省の処遇改善に関するQ&A」に次のように例示されています。
① 利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するために、福祉・介 護職員が技術・能力(例:介護技術、コミュニケーション能力、協調性、 問題解決能力、マネジメント能力等)の向上に努めること。
② 事業所全体での資格等(例:介護福祉士、介護職員基礎研修、居宅介護従業者養成研修等)の取得率向上
また、能力評価のとしては、個別面談や自己評価に対し先輩職員・サービス担当責任者・ユニットリーダー。管理者等が評価を行う手法が示されています。
さらに、研修計画については、全職員に対象に「ヒヤリハット事例への対応」「虐待防止や人体援護に関する理解」「基本的な防火対策の理解」「感染症への理解」初任職員対象に「基本的な待遇・マナーの理解」リーダー職員対象に「法令順守への理解」「利用者に対するアセスメントの実施」等が例示されています。
キャリアパス要件Ⅱは、介護職員の資質の向上を計画的に取り組み、きちんと評価をしてく
ださいという趣旨のものと言えます。
キャリアパス要件の詳細はこちらも参照ください。
キャリアパス要件について 介護職員処遇改善加算マニュアル - 介護支援ブログ
まとめ
キャリアパス要件についてご理解いただけましたでしょうか。
キャリアパス制度は、事業者と職員が将来像と目標を共有することで事業者にとっては、スキルの高い職員の確保・定着により介護の質の向上が期待でき、介護職員にとっては、昇給・昇格・仕事のやりがいといった生活の安心安定が得られる等、事業者・職員双方にとってメリットがあるものであることが伝われば幸いです。
一人でも多くの事業者の皆様がキャリアパス制度を導入していただけるよう、この記事のシェアをお願いいたします。
処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。
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(専門家監修:矢野文弘 先生)