介護支援ブログ

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平成27年処遇改善加算を得るためのキャリアパス要件とは?

介護事業者の皆様に間でいつも話題に上がる介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加算)。

業界全体で人材の定着が問題視されている中、従業員の定着はとても重要です。

従業員満足度向上のためにも、しっかりと加算を算定しておきたいものです。

今回の記事では2015(平成27)年の介護報酬改定における、処遇改善の算定に必要なキャリアパスの要件について詳しくご説明していきます。

ぜひ、今後の運営にお役立てください。

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キャリアパス要件とは

概要

2009(平成21)年に他の業種との賃金格差を是正し、介護職員の雇用を安定させることを目的に介護職員処遇改善交付金が設立されました。

処遇改善交付金は、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して介護職員(常勤換算)一人当たり月15,000円相当額を交付するといったものでしたが、2011(平成23)年に交付金は打ち切りとなり代わりにこれを継続する形で、2012(平成24)年から新たに介護報酬に創設された制度が処遇改善加算です。

キャリアパス要件とは、処遇改善加算を取得するための条件です。

2015(平成27)年の改正では加算Ⅰが新設され介護職員一人当たり27,000円の相当の加算が上乗せされるようになりました。

目的・背景

介護業界を取り巻く問題が介護職員の不足です。

今後さらに高齢者人口が増加し、職員の不足はますます深刻化すると言われています。

背景には、介護職の賃金が全産業平均賃金に比べ安いことや、仕事の多忙さからモチベーションを維持できず離職してしまうことが多いというものが考えられます。

介護職員のバラツキのある専門性に対し、正当な評価や介護職員の資質の向上を図り、その役割に応じた賃金体系を確立することで、やりがいのある職場環境を実現するためには、キャリアパス制度の導入が不可欠です。

キャリアパス制度導入促進を目的に、キャリパス要件が処遇改善加算の要件として定められました。

平成27年改定における処遇改善加算

2015(平成27)年の改定から再度改正が行われ、2017(平成29)年4月からは加算区分が変更となり、新加算区分Ⅰを算定するための要件としてキャリアパス要件Ⅲが設けられました。本記事では2015(平成27)年時点のキャリアパス要件2種類のみについて説明いたします。

2015(平成27)年で改正が提示されている、「平成27年3月31日付、老発0331第34号介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について」を参考にしてください。

 

処遇改善加算(Ⅰ)の新設

2015(平成27)年の介護報酬改定から従来の加算に加え処遇改善加算(Ⅰ)が新設されました。

処遇改善加算(Ⅰ)とはキャリパス要件2種類と職場環境等要件の全てを満たしたことを条件に介護職員一人当たり27,000円相当の加算が上乗せされるというものです。

これまで加算(Ⅱ)で15,000円相当の加算が得られる区分を取得していた事業所は、処遇改善加算(Ⅰ)を取得することで月額12,000円相当の上乗せ分が得られるのです。

処遇改善加算は、いずれかの区分で取得した場合は、当該区分以外の処遇改善区分加算は取得できませんので注意してください。

 

処遇改善加算区分の変更

処遇改善加算Ⅰが新設に伴いこれまでの処遇改善加算Ⅰ Ⅱ Ⅲは、それぞれ処遇改善加算Ⅱ Ⅲ Ⅳに変更されました。

処遇改善加算区分についてそれぞれの算定要件を記載しますと、

 

処遇改善加算(Ⅰ) 介護職員一人当たり27,000円相当加算

キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ及び職場環境等要件をすべて満たす対象業者

処遇改善加算(Ⅱ) 介護職員一人当たり15,000円相当加算

キャリアパス要件Ⅰ又はキャリアパス要件Ⅱのどちらかを満たすことに加え、職場環境

等要件を満たす対象業者

介護職員処遇改善加算(Ⅲ)  介護職員処遇改善加算(Ⅱ)×0.9

キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ又は職場環境等要件のいずれかを満たす対象

業者

介護職員処遇改善加算(Ⅳ)  介護職員処遇改善加算(Ⅱ)×0.8

キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ及び職場環境等要件のいずれも満たしていない対象業者

 

となります。

 

職場環境等要件の改正点

以前は、定量要件と呼ばれていたものが、今回の改正で職場環境等要件と名称が変更されたとともに加算区分によって届出のできる改善の実施時期が分けられました。

処遇改善加算(Ⅱ)(Ⅲ)では

平成20年10月から届出を要する日の属する月の前日までに実施した処遇改善(賃金改善を除く。)の内容を全ての介護職員に周知していることをもって、上記を満たしたものとする。

とあるのに対して処遇改善加算(Ⅰ)では

平成27年4月から届出を要する日の属する月の前日までに実施した処遇改善(賃金改善を除く。)の内容を全ての介護職員に周知していることをもって、上記を満たしたものとする。

となっており、加算Ⅰを算定するには平成27年4月以降に賃金改善以外の処遇改善を実施しなければならないのです。

 

キャリアパス要件の種類

処遇改善加算の要件には賃金体系等について定められたキャリアパス要件Ⅰと介護職員の資質の向上等について定められたキャリアパス要件Ⅱがあります。

新設された加算Ⅰを取得するためにはその両方を満たす必要があります。

キャリアパス要件Ⅰ

キャリアパス要件Ⅰを満たすためには 次のイ、ロ、ハのすべてに適合することが求められます。

イ  介護職員任用の際における職位、職責又は職務内容に応じた任用等の要件(介護職員賃金に関するものを含む。)を定めていること

ロ イに揚げる職位、職責又は職務内容に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。

ハ イ及びロの内容について就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。

 

介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について」参照

 

キャリアパス要件Ⅰについて具体的に説明していきます。

職位とは、仕事をするうえで地位を示すもので介護では施設長や統括リーダーさらには各種リーダーといったものが考えられます。

職責とは、職務上果たすべき責任で、職位に応じて決められることが多いです。

また、職務上の責任と同時に権限が与えられることがほとんどで、職位が上がることで責任と権限が増し、施設全体の方針を決める会議に出席し意見を反映できるとか部下の配置や勤務シフトを決める等、より高度な職務に従事することで、そのモチベーションを高めることができます。

任用等の要件とは、介護福祉士等取得資格、経験年数、介護技術、研修受講歴、 過去に従事してきた職務内容等、多様な要件が考えられますが、現実的にこれらの要件が相互に関係する形になるはずです。

 

また、有期雇用契約を締結している職員やパートタイム職員を期間の定めのない正規雇用職員として雇用するに当たっての要件を定めることもこれに当たります。

キャリアパス要件Ⅰは介護職員の資格・経験・技量等に応じた地位を与え、それに見合う賃金体制を書面で整備し、すべての介護職員に周知しなさいというものです。

キャリアパス要件Ⅱ

キャリアパス要件Ⅱを満たすには次の2点に該当する必要があります。

イ 介護職員の職務内容を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標及び一又は二に掲げる具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の機会を確保していること。

 一 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等を実施(OJT,OFF-JT等)するとともに、介護職員の能力評価を行うこと。

 二 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。

ロ イについて、すべての介護職員に周知していること。

 

介護職員処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について」参照

 

キャリパス要件Ⅱについて説明します。

介護職員と意見を交換しとは、可能な限り多くの介護職員の意見を聞く機会を設けることが望ましいとされています。

必ずしも面談・面接をする必要はなく、メールでもよいとされています。

資質向上の目標の具体例としては「厚生労働省の処遇改善に関するQ&A」に次のように例示されています。

①  利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するために、福祉・介 護職員が技術・能力(例:介護技術、コミュニケーション能力、協調性、 問題解決能力、マネジメント能力等)の向上に努めること。 

② 事業所全体での資格等(例:介護福祉士、介護職員基礎研修、居宅介護従業者養成研修等)の取得率向上  

また、能力評価のとしては、個別面談や自己評価に対し先輩職員・サービス担当責任者・ユニットリーダー。管理者等が評価を行う手法が示されています。

さらに、研修計画については、全職員に対象に「ヒヤリハット事例への対応」「虐待防止や人体援護に関する理解」「基本的な防火対策の理解」「感染症への理解」初任職員対象に「基本的な待遇・マナーの理解」リーダー職員対象に「法令順守への理解」「利用者に対するアセスメントの実施」等が例示されています。

 

キャリアパス要件Ⅱは、介護職員の資質の向上を計画的に取り組み、きちんと評価をしてく

ださいという趣旨のものと言えます。

キャリアパス要件の詳細はこちらも参照ください。

キャリアパス要件について 介護職員処遇改善加算マニュアル - 介護支援ブログ

まとめ

キャリアパス要件についてご理解いただけましたでしょうか。

キャリアパス制度は、事業者と職員が将来像と目標を共有することで事業者にとっては、スキルの高い職員の確保・定着により介護の質の向上が期待でき、介護職員にとっては、昇給・昇格・仕事のやりがいといった生活の安心安定が得られる等、事業者・職員双方にとってメリットがあるものであることが伝われば幸いです。

 

一人でも多くの事業者の皆様がキャリアパス制度を導入していただけるよう、この記事のシェアをお願いいたします。

 

 

処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

 

キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

(専門家監修:矢野文弘 先生)

介護職員処遇改善加算における見込額の計算方法とは

介護職員の賃金改善を目的として創設されたのが、介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加算)です。介護職員の離職率を減らし、安定した人材を確保するためにと、介護事業者の皆様からも注目されています。

今回は、この処遇改善加算の見込額の計算方法や注意点について、詳しく解説していきますので、ぜひご一読ください。

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処遇改善加算の見込額とは

処遇改善加算の見込額の目的

計画書に記載するために事前に払い込まれる金額を予測する

加算を算定しようとしている介護サービス事業所は、「厚生労働大臣が定める基準」介護職員処遇改善加算計画書の中に、処遇改善加算の見込額について記載することと規定されています。

加算算定額の見込額の算定式は下記の通りです。

①平成28年度より前に加算を取得していないサービス事業者等または平成28年度より前に加算を取得していたサービス事業者等の場合(3(1)ロ但し書きによって届出た介護サービス事業者等を除いたもの)。

介護報酬総単位数(見込数)×サービス別加算率(1単位未満の単数は四捨五入する)×1単位の単価(算定の結果は1円未満の単数を切り捨てる)

②平成28年度より前に加算を取得していたサービス事業者等で、3(1)ロ但し書きによって届出た介護サービス事業者等である場合。

介護報酬総単位数(見込数)×(加算①に係るサービス別加算率-加算②に係るサービス別加算率)(1単位未満の単数は四捨五入する)×1単位の単価(算定の結果は1円未満の単数を切り捨てる)

求人票などに記載する

最近の求人票には、「介護職員処遇改善加算対象施設」と記載され、処遇改善加算の見込額を明示してある事業所も増えてきています。

見込額を明示することで、就職希望者にとってより透明性のある事業所というアピールにも繋がります。

 

処遇改善加算の詳細はこちらから確認してください。

処遇改善加算について - 介護支援ブログ

処遇改善加算の計算方法

処遇改善加算の計算方法については、下記の通りとなります。

①1カ月あたりの総単位数の算出

②介護報酬総単位数の算出

③単位数→金額への換算

④利用者負担額・国保連請求額の算出

では、それぞれについて解説していきます。

1カ月あたりの総単位数の算出

計算式は下記の通りです。

(基本サービス費+各種加算減算)×利用日数=1カ月あたりの総単位数(=A)

基本サービス費とは、サービスごとの介護報酬より各種加算や減算、加算率を無視した値(単位)のことです。つまり、介護費用にとっての基本料金となります。

また、介護報酬はサービス事業者や施設等により介護サービスが行われた場合において、その対価として支払われる報酬のことです。

また、介護支援事業者が居宅介護支援を実施した際も対価として支払われます。

各種加算減算とは、基本料以外にサービスの費用単位のことです。

サービスを提供する時間帯や、事業所の人員、緊急時の対応等により様々な加算減算があります。

介護報酬総単位数の算出

介護報酬総単位数は、サービスごとの基本サービス費に各種の加算減算を加えた1カ月あたりの総単位数であり、算定を受けようとする年度において介護サービスの提供に係る見込みで算出します。

この際、過去の実績や事業計画などを勘案し、事業の実態にきちんと沿った数を用いましょう。

1カ月あたりの総単位数にサービス別加算率を乗法しましょう。

処遇改善加算区分や事業所のサービスに合った加算率を当てはめて計算します。

計算式は下記の通りです。

 

A×サービス別加算率=処遇改善加算の総単位数(=B)

A+B=介護報酬総単位数(=C)

 

サービス別加算率とは、サービス別介護職員処遇改善加算率のことを言います。

加算率とは、行政によって処遇改善加算における追加の報酬を交付してもらうよう、サービスごとに規定された率のことを言います。

平成24年度の介護報酬改定で行われた変更点の一つで、職員の給与変動に大きく影響します。

例を挙げると、訪問介護では加算Ⅰで13.70%、加算Ⅱで10.00%、加算Ⅲで5.50%、加算Ⅳで加算Ⅲの90%、加算Ⅴで加算Ⅲの80%となっています。

平成29年4月以降のサービス別加算率が記載されたURLを添付しておきますので、参考になさってください。

処遇改善加算の計算方法とは 平成27年度最新版 - 介護支援ブログ

単位数→金額への換算

上記の計算式を用いて計算した介護報酬総単位数を、金額へと換算します。地域区分により差があるため、事業所が位置している地域区分率を採用するようにしましょう。

計算式は下記の通りです。

B×地域区分=処遇改善加算総額

C×地域区分=介護報酬総額(=D)

 

ここで地域区分とは、地域間において人件費に差があることを考え、地域間の介護保険費用を配分する方法を調整していくための区分のことを言います。

平成27年度介護報酬改定により、8区分(1級地、2級地、3級地、4級地、5級地、6級地、7級地、その他)となっています。金額については、1級地(東京都特別区)が最高で、その他(1級地から7級地に入っていない地域が該当します)が最低となります。

地域区分について記載されたURLを添付しておきますので、参考になさってください。

【加算減算】地域区分とは

利用者負担額・国保連請求額の算出

平成27年度介護報酬改定の際、介護報酬の9割を公的資金が負担し、残りの1割については利用者が負担すると規定されました。計算式は下記の通りです。

D×90%=国保連請求金額

D×10%=利用者負担額

 

なお、国保連請求金額が介護保険における利用者の限度額を超過した場合、その分は利用者が負担します。

まとめ

今回の記事では、処遇改善加算における見込額についてと、その計算方法について見てきました。計算式が複雑なようにも見えますが、一つ一つ当てはめて行っていくことで、スムーズに処遇改善加算の見込額が導き出されるでしょう。

処遇改善加算計画書を効率的に運営することで、よりスムーズな経営に繋がることを願っております。

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処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

(専門家監修:矢野文弘 先生)

介護職員処遇改善加算の使い道とは。一時金や賞与にも使っていいの?

介護事業者の皆様の間でいつも話題に上がる介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加

算)。業界全体で慢性的な人材の不足と、介護スタッフの定着が問題視されている中、従業員の職場の満足度は非常に大切です。

その中でも、やはり賃金改善が一番の課題だと思います。

この記事では、処遇改善加算の使い道と必要なプロセスについて解説しながら、従業員満足度をより上げる方法を詳しくご説明していきます。

ぜひ一読し、今後の経営にお役立てください。

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処遇改善加算のおさらい

本題の処遇改善加算の使い道に入る前に、 まずは処遇改善加算について簡単におさらいしておきます。

処遇改善加算の前身となる、平成21年より導入されていた介護職員処遇改善交付金においては、内部保留や不透明性といった問題が指摘されていました。

そのため、この交付金を改定し、介護保険の報酬から確実に介護職員の給料に上乗せで

る制度として創設されたのが、介護職員処遇改善加算です。

平成29年度からは、さらに1つ区分が増えて、最上位の基準を満たせば月額37,000円相当が支払われます。

処遇改善加算の背景・目的

介護業界における人材の現状(背景)

介護職員は、他の専門職と協力しながら、実際のケアを行う職種です。

介護に関する資格を取得するためには、専門学校や通信講座、あるいは自分で参考書などを用いて勉強するなどして専門知識を学ぶとともに、試験、経験、研修も必要とされます。

こうやってやっと取得した資格で勤務するも、残念ながら離職率の高い業界になってしまっています。夜勤のあるシフト勤務が多い不規則な勤務時間や、体力や精神面においても重労働の割に低賃金であることが、人材確保を難しくしている一因であると考えられています。

また、慢性的な人手不足のため、介護職員1人にかかる負担が大きくなり、その職場で働き続けられなくなって退職、現場は更に人員不足になる。

早急に、とりあえずの人材を確保しようと、あまり適任でない人も採用するが続かない、といった悪循環に陥ってしまっている事業所も見受けられます。

賃金改善(目的)

では、どうすれば介護職員の定着率を上げられるのでしょうか。

介護現場における「改善」についての会議等は、通常「利用者にとっての改善、メリット」を考える場になっています。

もちろんこれも大切なことですが、「介護職員を疲弊させず、職場環境を改善しよう」というのは、二の次にされることが多いのです。

高齢者を支える仕事をしようというモチベーションを持って入社してきても、実際の介護現場の大変さに燃え尽きてしまう人もいます。

しかし、勤務時間や業務の内容については、現実問題として大きく変更することはできません。残る方法は、介護の仕事をある程度割に合ったものにするということです。

これにはキャリアアップしている実感と、それに伴って賃金を上げる方法しかありません。

そのため、処遇改善加算の算定には、キャリアアップのための制度を整えているかといったことも必要になります。

処遇改善加算の特徴

基準を満たし処遇改善加算が算定されれば、事業者は加算の全額を介護スタッフの給与へ上乗せし、賃金水準を改善させることが義務付けられています

つまり、内部保留や備品の購入など他の支出に流用することはもちろんのこと、介護スタッフに支給する交通費や福利厚生、研修の参加費用などに使用された場合にも返還する義務があります。

悪質な違反事業者に対しては指定取り消しといった厳しい処分も予想されます。

このように、明確に介護職員の賃金改善を目的としていることが処遇改善加算の特徴です。

分配方法については事業者に委ねられていますが、給与明細を見て総支給額が上がっているなど、介護職員が賃金改善を実感できるようにする必要があります。

また、処遇改善加算の取得においては、ケアスタッフの賃金改善をすることの他に、新人や中堅スタッフが、それぞれのポジションにおいてキャリアアップを目指していけるように、研修制度の提供などといった職場環境や、キャリアパス制度を整えていくことも奨励されています。

処遇改善加算の対象者

では、次に処遇改善の対象者について説明します。厚生労働省のサイトでは、以下のように定義されています。

同加算はあくまで直接処遇職員に対するものであって、ケアマネージャー、 看護師、生活相談員、事務員、調理師など、間接処遇職員については対象外である。

[出典] http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000070796.pdf

つまり、実際に現場で介護を行っている職員がこれに該当します。

基本的に事業所の管理者やサービス管理責任者、ケアマネージャー、事務職、看護師などの医療職は加算対象外となります。

あくまでも、重労働のわりに低賃金で離職率の高い「介護職員」が対象なのです。

しかし、小規模の事業所では、基準を満たす最低人員で運営している事業所も多く、そういった事業所では、生活相談員や事務職、更には「所長」といった管理者が、実際の介護職員としても兼任して働いている場合があります。

このような場合には、加算の対象として認められることもあります。

例として、認知症対応型のグループホームは、ケアマネージャーを配置しなければなりません。多くの認知症対応型グループホームでは、ケアマネージャーが管理者と兼務、あるいは介護職と兼務しています。

この場合、介護業務も実際に行っているケアマネージャーであれば、介護職員処遇改善加算の対象となります。ですが、管理職との兼務であれば対象外です。

その他の施設においてケアマネ―ジャー業務のみ行っている方も、もちろん対象外となります。看護師についても、看護師資格はあるものの、看護師としては働いておらず、主に介護業務を行っているのであれば対象となります。

処遇改善加算についての詳細はこちらから。

処遇改善加算について - 介護支援ブログ

処遇改善加算の使い道

では、実際に処遇改善加算には、どのような用途が適切であるのか解説します。

原則として、該当するのは給与・賞与・一時金の3つです。

給与

処遇改善加算を申請する時点での基本給に上乗せ支給することになります。

「昇給」として毎月の給料のベースアップをする、あるいは「処遇改善手当」として別に賃金項目を追加して、処遇改善加算を分配します。

厚生労働省は、基本給に上乗せすることが最も好ましいと考えているようです。

賞与

事業所によっては、賞与は年1〜3回支給されているところもあります。

このボーナスに上乗せして支給します。

例えば加算額が、加算Ⅱの15,000円相当であれば、これは毎月の金額になるので、

15,000円×12カ月で、年間の総額は180,000円となり、賞与が年2回の施設であれば1回あたり90,000円の上乗せになります。

(ただし分配方法は事業者に委ねられているため、介護スタッフ一律15,000円支給の場

合もあれば、勤務年数や資格等により介護職員ごとに増減されることもあります。)

一時金

数カ月ごとに1回、または年末年始や年度末などに、特別報酬やインセンティブとして1年分を一括して支払われることもあります。「処遇改善手当」や「その他手当」、「一時金」という賃金名目にして支給することが多いようです。

これは事業者にとって、毎月の基本給に上乗せするよりも、処遇改善加算の収入に応じて、支給額を調整しやすいといった利点があるようです。

介護保険の加算においては、増減や新設及び廃止といったことが度々起こるので、随時対応しなければいけないことも影響しています。

法定福利費(社会保険料)

法定福利費とは一般に、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・労働災害保険料・児童手当拠出金・雇用保険料などの社会保険料を指します。

このうち、最初の3つは事業者と被雇用者の折半、労働災害保険料と児童手当拠出金は事業者の全額負担、雇用保険料は介護分野(一般)では、給与の0.9%が事業者負担で被雇用者負担は0.6%になります。

例えば、処遇改善加算の支給金額をそのまま全額、社会保険料にあてることはできません。

しかし、処遇改善加算を基に支払う賃金が増えれば、それにともなって社会保険料も増えます。この増加分のうち、事業者が負担した部分は、賃金改善額として計算することができます。

使い道選定に関する注意事項について

処遇改善加算をどういった使い方をするのか、あるいは支給の回数や時期というのも、事業者の判断に任されています。

しかしながら、加算の本来の趣旨である「介護職員の賃金改善」といったことを逸脱し、基本給を下げてその分を加算で補う、交通費など他の賃金名目に使う、介護に従事していない役員の給与に上乗せするといった、悪質な業者について耳にすることもあります。

処遇改善加算の用途には制限があること、違反すれば既に支給されている加算を全額返還しなければならないことを、事業者はしっかりと認識しておくべきです。   

また、加算における賃金改善実施期間は基本的に4月から翌年の3月までの1年間です。

処遇改善加算の取得プロセス

処遇改善計画書の作成

処遇改善計画書には、介護職員1人あたりの平均の賃金改善見込み額を記載し、その内容をすべてのスタッフへ周知させる必要があります。

これにより、被雇用者側はおおよその加算金額や支給方法や頻度を知ることができると

ともに、事業者が加算を他の用途に使うことを監視し、事業者側としても、対象のスタッフが誰になるのか、上乗せされる金額は介護職員間においても差があること、キャリアアップの制度などについて周知させることができます。

管理者は介護保険の改正などに敏感で情報を得ようとしますが、一般の介護職員においては、介護保険制度に詳しくない方も多くいます。そういったスタッフに誤解を生じさせないためにも、処遇改善計画書を周知させるということは重要なのです。加算申請時には、この処遇計画書や処遇改善加算届出書の他、必要書類を添えて、自治体の担当課に提出します。

処遇改善加算の算定

処遇改善加算の計算は、申請する加算のカテゴリーⅠ〜Ⅴと介護サービス事業の種類により異なるので少し複雑ですが、基本的に1カ月あたりの利用総単位数にサービス別加算率を掛け、端数は四捨五入して介護報酬総単位数を求めます。さらにこれに地域区分率を掛けます。つまり、計算式は、総単位数×サービス加算率×地域区分率となります。

このうち、税金からの負担分が90%、利用者負担分が10%になります。

この他にも、キャリアパス制度を整えているかといったことも算定要件になります。

申請するカテゴリーⅠ〜Ⅴにより、算定要件は異なります。

都道府県都知事等への提出

介護職員処遇改善加算については、通常の加算と同様に自治体に届出る必要があります。

必要書類及び添付書類は、以下のようなものになります。

 

介護給付費算定に関する体制等に係る届出書

介護給付費算定に係る体制等状況一覧表

介護職員処遇改善加算届出書(*)

介護職員処遇改善計画書(*)

キャリアパス要件に係る添付資料

就業規則・給与規程(写し)

労働保険関係成立届等及び納付書(写し)

 

注意点として2点あり、(*)の書類については、平成29年度から体系に変更があるため、様式の変更等が予想されます。

もう1点は、複数の介護事業所を運営しているグループ事業者などについては、複数の事業所を一括して処遇改善計画書を作成し、指定権者に届出ることもできますが、事業の指定が県と市町村の管轄に分かれている場合には、それぞれに提出することになります。

また、グループ事業所についての追加の書類を提出しなければなりません。

 

新規申請の場合は、算定を受けようとする月の前々月の末日までに届出が必要となっています。すでに加算を受けていて、その更新時には、年度末に近い2月末日までに届出ます。

4月以降のサービス分で介護職員処遇改善加算の算定を受けようとする場合は、算定を受けようとする月の前々月の末日までに申請するようになっているので、6月末日までに書類を提出すれば、8月サービス分から算定を受けることができます。

平成29年度は改正にともない、提出期限を4月中旬〜下旬に設定してあります。

期日は自治体により異なるので、直接問い合わせてください。

賃金改善の実績報告

賃金改善の実地報告も義務付けられています。加算が最後に支払われた月の2カ月後末までに処遇改善加算実績報告書を作成して、これに賃金総額の積算根拠となる資料を添付し、自治体の担当課に提出します。

平成29年3月まで加算を算定していた事業所は、最終の加算の支払いがあった平成29年5月の2か月後、つまり7月末までに実績報告書を提出することになります。

この期限は厳密で、期限までに実績報告を行わないと加算の算定要件を満たさないことになり、1年分を遡って返納することになるので、注意します。

また、賃金改善額が、加算による収入額を上回ることが前提なので、何らかの事情により下回ってしまった場合には、年度末に一時金として支給するなど、対応が必要です。

金額内訳を記載する欄もあり、監査の際には問題がないかチェックされます。

まとめ

以上、処遇改善加算の使い道や規則、申請のプロセスについて解説しました。

介護職員不足は緊急の課題であり、今後の更なる人員需要の高まりも見据えて、国としても賃金改善を後押ししています。

そのために、処遇改善加算の用途を間違えると、返納や指定取り消しなど厳しい処罰になります。

事業者の皆様は、この加算は税金と利用者からの介護職員へのインセンティブであることを理解し、介護スタッフが長く働いていける環境を整える責任があるのではないでしょうか。

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処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

(専門家監修:矢野文弘 先生)

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