介護事業者の皆様の間でいつも話題に上がる介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加
算)。業界全体で慢性的な人材の不足と、介護スタッフの定着が問題視されている中、従業員の職場の満足度は非常に大切です。
その中でも、やはり賃金改善が一番の課題だと思います。
この記事では、処遇改善加算の使い道と必要なプロセスについて解説しながら、従業員満足度をより上げる方法を詳しくご説明していきます。
ぜひ一読し、今後の経営にお役立てください。
処遇改善加算のおさらい
本題の処遇改善加算の使い道に入る前に、 まずは処遇改善加算について簡単におさらいしておきます。
処遇改善加算の前身となる、平成21年より導入されていた介護職員処遇改善交付金においては、内部保留や不透明性といった問題が指摘されていました。
そのため、この交付金を改定し、介護保険の報酬から確実に介護職員の給料に上乗せで
る制度として創設されたのが、介護職員処遇改善加算です。
平成29年度からは、さらに1つ区分が増えて、最上位の基準を満たせば月額37,000円相当が支払われます。
処遇改善加算の背景・目的
介護業界における人材の現状(背景)
介護職員は、他の専門職と協力しながら、実際のケアを行う職種です。
介護に関する資格を取得するためには、専門学校や通信講座、あるいは自分で参考書などを用いて勉強するなどして専門知識を学ぶとともに、試験、経験、研修も必要とされます。
こうやってやっと取得した資格で勤務するも、残念ながら離職率の高い業界になってしまっています。夜勤のあるシフト勤務が多い不規則な勤務時間や、体力や精神面においても重労働の割に低賃金であることが、人材確保を難しくしている一因であると考えられています。
また、慢性的な人手不足のため、介護職員1人にかかる負担が大きくなり、その職場で働き続けられなくなって退職、現場は更に人員不足になる。
早急に、とりあえずの人材を確保しようと、あまり適任でない人も採用するが続かない、といった悪循環に陥ってしまっている事業所も見受けられます。
賃金改善(目的)
では、どうすれば介護職員の定着率を上げられるのでしょうか。
介護現場における「改善」についての会議等は、通常「利用者にとっての改善、メリット」を考える場になっています。
もちろんこれも大切なことですが、「介護職員を疲弊させず、職場環境を改善しよう」というのは、二の次にされることが多いのです。
高齢者を支える仕事をしようというモチベーションを持って入社してきても、実際の介護現場の大変さに燃え尽きてしまう人もいます。
しかし、勤務時間や業務の内容については、現実問題として大きく変更することはできません。残る方法は、介護の仕事をある程度割に合ったものにするということです。
これにはキャリアアップしている実感と、それに伴って賃金を上げる方法しかありません。
そのため、処遇改善加算の算定には、キャリアアップのための制度を整えているかといったことも必要になります。
処遇改善加算の特徴
基準を満たし処遇改善加算が算定されれば、事業者は加算の全額を介護スタッフの給与へ上乗せし、賃金水準を改善させることが義務付けられています。
つまり、内部保留や備品の購入など他の支出に流用することはもちろんのこと、介護スタッフに支給する交通費や福利厚生、研修の参加費用などに使用された場合にも返還する義務があります。
悪質な違反事業者に対しては指定取り消しといった厳しい処分も予想されます。
このように、明確に介護職員の賃金改善を目的としていることが処遇改善加算の特徴です。
分配方法については事業者に委ねられていますが、給与明細を見て総支給額が上がっているなど、介護職員が賃金改善を実感できるようにする必要があります。
また、処遇改善加算の取得においては、ケアスタッフの賃金改善をすることの他に、新人や中堅スタッフが、それぞれのポジションにおいてキャリアアップを目指していけるように、研修制度の提供などといった職場環境や、キャリアパス制度を整えていくことも奨励されています。
処遇改善加算の対象者
では、次に処遇改善の対象者について説明します。厚生労働省のサイトでは、以下のように定義されています。
同加算はあくまで直接処遇職員に対するものであって、ケアマネージャー、 看護師、生活相談員、事務員、調理師など、間接処遇職員については対象外である。
つまり、実際に現場で介護を行っている職員がこれに該当します。
基本的に事業所の管理者やサービス管理責任者、ケアマネージャー、事務職、看護師などの医療職は加算対象外となります。
あくまでも、重労働のわりに低賃金で離職率の高い「介護職員」が対象なのです。
しかし、小規模の事業所では、基準を満たす最低人員で運営している事業所も多く、そういった事業所では、生活相談員や事務職、更には「所長」といった管理者が、実際の介護職員としても兼任して働いている場合があります。
このような場合には、加算の対象として認められることもあります。
例として、認知症対応型のグループホームは、ケアマネージャーを配置しなければなりません。多くの認知症対応型グループホームでは、ケアマネージャーが管理者と兼務、あるいは介護職と兼務しています。
この場合、介護業務も実際に行っているケアマネージャーであれば、介護職員処遇改善加算の対象となります。ですが、管理職との兼務であれば対象外です。
その他の施設においてケアマネ―ジャー業務のみ行っている方も、もちろん対象外となります。看護師についても、看護師資格はあるものの、看護師としては働いておらず、主に介護業務を行っているのであれば対象となります。
処遇改善加算についての詳細はこちらから。
処遇改善加算の使い道
では、実際に処遇改善加算には、どのような用途が適切であるのか解説します。
原則として、該当するのは給与・賞与・一時金の3つです。
給与
処遇改善加算を申請する時点での基本給に上乗せ支給することになります。
「昇給」として毎月の給料のベースアップをする、あるいは「処遇改善手当」として別に賃金項目を追加して、処遇改善加算を分配します。
厚生労働省は、基本給に上乗せすることが最も好ましいと考えているようです。
賞与
事業所によっては、賞与は年1〜3回支給されているところもあります。
このボーナスに上乗せして支給します。
例えば加算額が、加算Ⅱの15,000円相当であれば、これは毎月の金額になるので、
15,000円×12カ月で、年間の総額は180,000円となり、賞与が年2回の施設であれば1回あたり90,000円の上乗せになります。
(ただし分配方法は事業者に委ねられているため、介護スタッフ一律15,000円支給の場
合もあれば、勤務年数や資格等により介護職員ごとに増減されることもあります。)
一時金
数カ月ごとに1回、または年末年始や年度末などに、特別報酬やインセンティブとして1年分を一括して支払われることもあります。「処遇改善手当」や「その他手当」、「一時金」という賃金名目にして支給することが多いようです。
これは事業者にとって、毎月の基本給に上乗せするよりも、処遇改善加算の収入に応じて、支給額を調整しやすいといった利点があるようです。
介護保険の加算においては、増減や新設及び廃止といったことが度々起こるので、随時対応しなければいけないことも影響しています。
法定福利費(社会保険料)
法定福利費とは一般に、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・労働災害保険料・児童手当拠出金・雇用保険料などの社会保険料を指します。
このうち、最初の3つは事業者と被雇用者の折半、労働災害保険料と児童手当拠出金は事業者の全額負担、雇用保険料は介護分野(一般)では、給与の0.9%が事業者負担で被雇用者負担は0.6%になります。
例えば、処遇改善加算の支給金額をそのまま全額、社会保険料にあてることはできません。
しかし、処遇改善加算を基に支払う賃金が増えれば、それにともなって社会保険料も増えます。この増加分のうち、事業者が負担した部分は、賃金改善額として計算することができます。
使い道選定に関する注意事項について
処遇改善加算をどういった使い方をするのか、あるいは支給の回数や時期というのも、事業者の判断に任されています。
しかしながら、加算の本来の趣旨である「介護職員の賃金改善」といったことを逸脱し、基本給を下げてその分を加算で補う、交通費など他の賃金名目に使う、介護に従事していない役員の給与に上乗せするといった、悪質な業者について耳にすることもあります。
処遇改善加算の用途には制限があること、違反すれば既に支給されている加算を全額返還しなければならないことを、事業者はしっかりと認識しておくべきです。
また、加算における賃金改善実施期間は基本的に4月から翌年の3月までの1年間です。
処遇改善加算の取得プロセス
処遇改善計画書の作成
処遇改善計画書には、介護職員1人あたりの平均の賃金改善見込み額を記載し、その内容をすべてのスタッフへ周知させる必要があります。
これにより、被雇用者側はおおよその加算金額や支給方法や頻度を知ることができると
ともに、事業者が加算を他の用途に使うことを監視し、事業者側としても、対象のスタッフが誰になるのか、上乗せされる金額は介護職員間においても差があること、キャリアアップの制度などについて周知させることができます。
管理者は介護保険の改正などに敏感で情報を得ようとしますが、一般の介護職員においては、介護保険制度に詳しくない方も多くいます。そういったスタッフに誤解を生じさせないためにも、処遇改善計画書を周知させるということは重要なのです。加算申請時には、この処遇計画書や処遇改善加算届出書の他、必要書類を添えて、自治体の担当課に提出します。
処遇改善加算の算定
処遇改善加算の計算は、申請する加算のカテゴリーⅠ〜Ⅴと介護サービス事業の種類により異なるので少し複雑ですが、基本的に1カ月あたりの利用総単位数にサービス別加算率を掛け、端数は四捨五入して介護報酬総単位数を求めます。さらにこれに地域区分率を掛けます。つまり、計算式は、総単位数×サービス加算率×地域区分率となります。
このうち、税金からの負担分が90%、利用者負担分が10%になります。
この他にも、キャリアパス制度を整えているかといったことも算定要件になります。
申請するカテゴリーⅠ〜Ⅴにより、算定要件は異なります。
都道府県都知事等への提出
介護職員処遇改善加算については、通常の加算と同様に自治体に届出る必要があります。
必要書類及び添付書類は、以下のようなものになります。
介護給付費算定に関する体制等に係る届出書
介護給付費算定に係る体制等状況一覧表
介護職員処遇改善加算届出書(*)
介護職員処遇改善計画書(*)
キャリアパス要件に係る添付資料
就業規則・給与規程(写し)
労働保険関係成立届等及び納付書(写し)
注意点として2点あり、(*)の書類については、平成29年度から体系に変更があるため、様式の変更等が予想されます。
もう1点は、複数の介護事業所を運営しているグループ事業者などについては、複数の事業所を一括して処遇改善計画書を作成し、指定権者に届出ることもできますが、事業の指定が県と市町村の管轄に分かれている場合には、それぞれに提出することになります。
また、グループ事業所についての追加の書類を提出しなければなりません。
新規申請の場合は、算定を受けようとする月の前々月の末日までに届出が必要となっています。すでに加算を受けていて、その更新時には、年度末に近い2月末日までに届出ます。
4月以降のサービス分で介護職員処遇改善加算の算定を受けようとする場合は、算定を受けようとする月の前々月の末日までに申請するようになっているので、6月末日までに書類を提出すれば、8月サービス分から算定を受けることができます。
平成29年度は改正にともない、提出期限を4月中旬〜下旬に設定してあります。
期日は自治体により異なるので、直接問い合わせてください。
賃金改善の実績報告
賃金改善の実地報告も義務付けられています。加算が最後に支払われた月の2カ月後末までに処遇改善加算実績報告書を作成して、これに賃金総額の積算根拠となる資料を添付し、自治体の担当課に提出します。
平成29年3月まで加算を算定していた事業所は、最終の加算の支払いがあった平成29年5月の2か月後、つまり7月末までに実績報告書を提出することになります。
この期限は厳密で、期限までに実績報告を行わないと加算の算定要件を満たさないことになり、1年分を遡って返納することになるので、注意します。
また、賃金改善額が、加算による収入額を上回ることが前提なので、何らかの事情により下回ってしまった場合には、年度末に一時金として支給するなど、対応が必要です。
金額内訳を記載する欄もあり、監査の際には問題がないかチェックされます。
まとめ
以上、処遇改善加算の使い道や規則、申請のプロセスについて解説しました。
介護職員不足は緊急の課題であり、今後の更なる人員需要の高まりも見据えて、国としても賃金改善を後押ししています。
そのために、処遇改善加算の用途を間違えると、返納や指定取り消しなど厳しい処罰になります。
事業者の皆様は、この加算は税金と利用者からの介護職員へのインセンティブであることを理解し、介護スタッフが長く働いていける環境を整える責任があるのではないでしょうか。
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処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。
(専門家監修:矢野文弘 先生)