平成12年4月にスタートした介護保険制度。施設サービスと在宅サービスの二本柱から成り立っています。どちらのサービスにおいても、利用者の気持ちに応えられるサービス提供が前提となっています。
利用者の望む形の在宅生活の実現のために欠かせない存在が、介護支援専門員(ケアマネジャー)です。利用する介護サービスを組み立て、その人らしく目標に向かって前向きに暮らしていけるような生活を組み立てる、なくてはならない存在です。
ケアマネジャーが作成する居宅サービス計画書(ケアプラン)には、利用者本人、ご家族の思いや希望、担当するケアマネジャーの専門性が凝縮しています。
そのケアプランをめぐっては、平成30年の介護保険制度改定に向けて「有料化」に向けた議論がなされています。平成29年現在、担当のケアマネジャーがケアプランを作成する「居宅介護支援」については全額保険で賄われていますが、その額は年間約4200億円。ケアプラン有料化は年々増大していく介護保険費用の抑制のため、以前から取り沙汰されてきました。有料化が実現すれば、ケアマネジャーが作成するケアプランに対する世間の目はより厳しいものになります。
ケアマネジャーにとっては「集大成」というべきケアプランですが、業務に追われながらケプラン内容に漠然と不安を抱いているケアマネジャーも多いことと思います。改めて一から振り返ってみましょう。日々の不安が解消され、より専門性が発揮できるようにお手伝いできればと思っています。ではさっそく見ていきましょう!
1居宅介護サービス計画書とは
○ケアプランの概要
居宅介護サービス計画書(ケアプラン)とは、文字通り介護保険のサービスをどのように利用していくかを示す計画書です。サービスを利用するためには、前もってケアプランが作成されている必要があります。また定期的に内容を振り返って評価し、修正して更新していかなければなりません。現在、介護保険の要介護認定は最長2年間で必ず更新が必要です。その際にもケアプランを更新する必要があります。
ケアプラン作成にあたっては、必ず利用者と面接し、本人の生の声を聞いて作成します。利用者本位のプラン作りには絶対に欠かせないプロセスです。
ケアプランの作成は、主にケアマネジャーが行いますが、利用者本人がプランを作成すること(セルフケアプラン)も可能です。ケアマネジャーにとっては、専門家としての腕の見せどころとなります。日頃から介護保険の各サービスについての幅広い知識(または知識を持った専門家とのつながり)が必要です。
ケアプランには「総合的な援助方針」が示されています。この方針に基づき、「目標」が立てられます。目標には長期目標と短期目標があり、それぞれに達成の目処となる時期が明記されます。
「目標」の達成のために必要な介護サービスの種類や回数が設定され、予定表という形で添付されます。
各表の詳細は、次の項目2で解説していきます。
○他のケアプランとの違い
・施設サービスにおけるケアプラン
老人保健施設、特別養護老人ホーム、介護療養型医療施設などにおいても、サービスの提供にはケアプランが必要となります。施設サービスは種類によって、施設に入居する目的が大きく違ってきます。老健は、それまでの入院リハビリ(医療保険)から介護保険の枠組みに切り替えてリハビリを継続するための施設です。入居の目的はあくまでも「在宅復帰」です。そのため、退所して自宅へ帰る日を最終的なゴールとして、逆算的なプラン設計が行われます。
一方特養は、「終の棲家」とも言われるように、いったん入居したら在宅へは戻らないことが一般的です。そのため、施設内での生活が継続できることを目的としたプランが立てられます。
・居宅ケアプランと施設ケアプランの違いとは?
居宅ケアプランが施設ケアプランと異なる最も大きい点は、「在宅生活を継続するためのプラン」であることです。そのため、利用者の意向だけでなく自宅の環境についてもしっかりと把握していかなければなりません。
・介護予防サービス計画書(予防ケアプラン)との違いとは?
予防ケアプランは、要支援1または2の人が介護予防サービスを利用する場合に作成される計画書です。要支援の方は、要介護状態の方に比べて自分でできることがたくさんありますので、より自立志向型のプランとなります。状態によっては初回のみ作成して原則更新がないパターンもあります。
介護サービス計画書の方が相対的にサービスの利用頻度が高く、また利用者の状態もより重症であるため、定期的なアセスメント、モニタリングが欠かせません。
2居宅介護サービス計画書の様式
○第1表
第1表は、サービス全体の方向性を示す重要な役割を果たします。利用者やご家族が、介護保険のサービスを使ってこれからの生活をどのように組み立てていきたいかを記載します。
しかし、利用者・ご家族に初めから明確な方向性があることは考えにくいと言えます。相手にとっては「介護保険」はよくわからない制度です。「デイサービスに通えば風呂に入れる」など、断片的な情報でサービスを希望されるケースも多くあります。しかし、仮に「入浴」が目的であるとすれば、デイサービスだけでなく訪問介護や訪問入浴も選択肢となります。
このように、サービスの種類やそれぞれの特徴、料金などを一つ一つ説明していく中で徐々に利用者・ご家族の目指す方向性が定まってくるものです。これはケアマネジャーにとって信頼関係の構築にも関わる重要な過程です。
右上にある「初回・紹介・継続」欄について解説します。この欄には3つの項目の中から1つに○をつけます。このうち、「初回」は初めて当該事業所で居宅介護支援を受ける場合に選択します。すでに他の事業所(同法人内の別事業所も含む)において居宅介護支援を受けていた場合、または施設介護サービスを受けていた場合に選択します。
○第2表
第2表は、利用者のニーズ(課題)に対して具体的な目標を立てて、対象となるサービス内容を明記します。ニーズは、課題分析(アセスメント)から導き出していきます。このアセスメントがケアマネジャーの腕の見せどころです。
目標は短期目標と長期目標とに分かれます。長期目標の達成のために、より具体的にした目標を複数個、短期目標として設定します。短期目標の設定期間後が経過したあとは、達成度合いを評価し、未達成であれば継続または変更とします。達成できていれば、速やかにレベルアップした次の目標へと変更します。
サービス内容は、サービス種別の短期目標の達成のために、サービスの種類ごとに提供するサービスの内容を具体的に記入します。達成度を測りやすくするためには、より明確な目標設定が望ましいです。目標の達成は数値化が難しく、できたかどうかが曖昧になりがちです。下記の例のように、できたかどうかを判定できるように設定していきましょう。
(例)×トイレ動作の練習をする ⇒ ○自分ひとりでトイレにて一連の排泄行為ができる
また、プランニングにあたってしばしば長期目標・短期目標の期間設定に悩むことがあります。一般的には長期目標については半年から2年とされている場合が多いでしょう。目標期間の設定については介護保険の認定期間を考慮するとされているため、長期目標が介護保険の認定期間と同じく2年であっても間違いではありません。
短期目標は長期目標の達成状況を見やすく細分化したものですから、長期目標の期間を超えない半年以内程度とされます。この短期目標の目標設定が明確であると、目標を達成できたかどうかの評価がしやすく、長期目標の進捗状況も把握しやすくなります。
現在の身体機能の能力を維持することだけではなく、改善していくことも考えてプランを作っていく必要があります。手続きに時間的・費用的なコストがかかることから、介護保険の有効期間も長期化しています。目標の達成状況をまめに確認していくことも、ケアマネジャーには求められています。
○第3表
第3表は、週間サービス計画です。一週間を一枚の用紙で俯瞰できるようにすることで、サービスの使用状況を把握することができます。定期利用の訪問介護やデイサービスなど、曜日と時間が固定されているものを記入するだけではありません。福祉用具のレンタルのような月単位のサービス、スポット利用のショートステイなど、計画されているサービスは基本的に全て記入します。
利用者の生活は、介護保険サービスのみで組み立てられるわけではありません。医療的な関わり(通院、往診)も重要ですし、ご家族の介護力や友人との交流なども、その人の生活を支えています。利用者の生活パターンは、起床時間などに限らず、他者とのつながりや趣味なども含めて幅広く記載するとよいでしょう。
また、主たる介護者である、ご家族の生活パターン(仕事の休みなども含む)も細かく記載できると、サービスの見直しの時にあてはまるサービスを探しやすくなります。
○第4表
第4表はサービス担当者会議についての記録です。サービス担当者会議は、ケアマネジャーの呼びかけにより、利用者・ご家族のほか、サービスを提供する事業所の担当者が集い、利用者のより良い生活を組み立てるための重要な会議です。
公的な会議記録としての機能もありますので、会議の参加者についてはしっかりと所属と名前を確認しておきましょう。どんなことを話し合ったか重要なポイントを入力します。
事業所によっては会議への参加が難しい場合もあることと思います。その場合は事前に照会を行います。詳しくは次の「第五表」で解説します。
担当者会議を開催する際は、ケアマネジャーとして「テーマ」を持って臨みましょう。単なる顔合わせや経過報告では、参加者の貴重な時間を浪費してしまいます。テーマに深く関わる事業所の担当者には必ず参加してもらえるように、余裕を持って日程調整を行いましょう。
話し合いによって決定した事項は、
- いつまでに行うか(期限)
- 誰が行うか(担当者)
- どのように行うか(方法)
が明らかになるようにしておく必要があります。記録についてもこの3点を明記するように心がけましょう。
また、担当者会議の記録は速やかにまとめ、参加者に配布します。共通理解を得るためには、記憶が薄れないように記録のスピードも重要となます。
○第5表
第5表を使用するのは以下の2つの場合です。
- サービス担当者会議が開催できない場合
- サービス担当者会議に出席できない担当者に、前もって意見を照会する
使用する場合は、会議を開催できない理由や、出席できない理由を明らかにしておく必要があります。2.の場合は必ず当日までに照会を受け、代読することで他の参加者に伝えるようにします。
○第6表
第6表は居宅介護支援経過です。ケアマネジャーが利用者やご家族、サービス事業所担当者とのやり取りを記載します。記録はケアマネジャー個人の備忘録やメモではなく、公的なものとなりますので、必ず日時・相手方の名前を記載します。
利用者やご家族の意向や満足度については、モニタリングを行った結果をありのままに記載します。特にニーズの捉え方に利用者・ご家族の認識不足がある場合などは、ケアマネジャーが感じたことについても記載し、詳細が後からわかるようにするとよいでしょう。この場合、客観的なものと主観的なものが混在しないように注意します。
電話連絡などのやりとりについては、簡潔に要点を書くように心がけます。項目を分け、整理して記載しましょう。
○第7表
第7表はサービス利用票となります。カレンダーが組みこまれていて、一ヶ月単位で提供される介護保険サービスの予定と実績をサービスごとに入力できるようになっています。
○第8表
第8表は「サービス利用票別表」です。第7表に記載された介護保険サービスの単価(単位)と一ヶ月の総額が記載されます。サービス区分ごとの合計額がわかるようになっています。
この表を見ると一ヶ月分の介護保険サービスの金額が分かります。利用者やご家族と必ず確認し、金額の認識に間違いがないか確認することが重要です。特に全額自己負担となっているものがある場合には、高額になるため注意しましょう。
3居宅介護サービス計画書」の記入例
では、実際の様式に記載するための注意点を踏まえて記入方法を確認していきます。
居宅サービス計画書雛形 (神戸市役所ホームページより)も併せてご確認ください。
○第1表
- 上段の利用者名や生年月日など、基本情報には間違いがないように注意して記入します。
- 計画書はあくまでもサービスを提供するために作成するものですから、作成日はサービスが提供されるよりも前でなくてはなりません。
- 「利用者及び家族の生活の対する意向」欄には本人、家族の言葉をそのまま記載します。もしも利用者とご家族の意向に相違があり、お互いに言えないような状況がある場合はこの欄には記載せず、第6表の支援経過に記載します。
- 「総合的な援助の方針」には、担当者会議を開いたうえで、利用者とご家族の意向を十分に反映したチームケアの指針を記載します。
○第2表
- 一番左の欄に、利用者及び家族のニーズを記載します。優先順位の高いものから順番に記載していきます。その際、自立支援の観点からネガティブな表現を避け、「○○できるようになりたい」といった表現を使います。
- 長期目標は、ニーズが達成できる内容となり、短期目標は長期目標を具体的に手順化したものと考えます。
- 短期目標を達成するために、必要なサービス内容とサービス種別、頻度、期間を記載します。ご家族が協力する場合などインフォーマルな支援についても、記載しましょう。
- 期間については、一般的には長期目標については半年から2年、短期目標は長期目標の期間を超えない半年以内とされます。
- 短期目標の目標設定はできるだけわかりやすいものにしておくと、達成できたかどうかの評価がしやすく、長期目標の進捗状況も把握しやすくなります。
○第3表
提供される介護保険サービスを計画表に組み込みます。通院などの医療的なサービスやボランティアなどインフォーマルな支援も合わせて記載します。
「主な日常生活上の活動」に、利用者の生活リズムを記載します。できるだけ詳しく記載しておくと、サービスの有効性が確認しやすくなるとともに、修正も容易となります。週単位ではないサービスについては、「週単位以外のサービス」へ記載します。
○第4表
- サービス担当者会議を行った日時、場所と、今までの累積回数を記載します。
- 出席者については、記載の際に困らないように、必ず所属先と名前を確認しておきましょう。
- 会議内で検討された項目と内容について整理して記録します。結論は項目ごとにまとめ、「誰が」「いつまでに」「どうやって行う」のかを明らかにします。
- 「残された課題」には持ち越された項目を示しておきます。特に意向がありながらサービス提供の環境が整わない場合(デイサービスに行きたいが空きがないなど)は必ず記載します。次回の開催時期についても共有しておきましょう。
○第5表
- サービス担当者会議に参加できない担当者に、前もって情報提供と意見を求めるものです。当日までに間に合うよう、欠席がわかった時点で依頼しておきます。
- 会議の中では、ケアマネジャーが代読して参加者に伝えます。
○第6表
- ケアマネジャーが行った利用者やご家族、サービス事業所担当者とのやり取りを記載します。必ず日時・相手方の名前を併記します。
- 利用者やご家族の意向については、モニタリングを行った結果をそのまま記載します。客観的なものと主観的なものが混在しないように注意します。
- 電話連絡などのやりとりについては、簡潔に要点を書くように心がけます。項目を分け、整理して記載しましょう。
○第7表
- 毎月のサービスの予定を記載します。トラブル回避のためにも必ず利用者やご家族に一つずつ確認してもらいましょう。
- 同意を得てから右上段の「利用者確認」欄へ押印をしてもらいます。欄外に日付も併せて記入してもらいます。
○第8表
第7表のサービス内容について、サービスの合計単位数やサービス利用料金、そのうちの自己負担額が記載されます。介護保険の仕組みは一般の人には難しい仕組みです。特にお金の部分については時間をかけて説明します。
4まとめ
介護保険の導入以来、サービスを利用したい人には、ケアマネジャーが「無料で」専属して担当してくれる仕組みです。居宅介護サービス計画書の作成も、サービスの多い少ないにかかわらず保険で賄われています。しかし、今後はこの「当たり前」も変わる日が来るかもしれません。
現在は「介護保険を申請しても、サービスを使わずケアマネジャーが担当するだけならお金はかからない」ことが、利用者へのアプローチに大いに貢献している現状があります。しかし「お金がかかるならいらない」という利用者からの「門前払い」が、全国の居宅介護支援の現場で起こるかもしれません。
改めて関心が高まる背景には「ケアプランがきちんとあるべき姿になっているのか」という疑問があることもまた事実です。ケアマネジャー、一人ひとりが自信を持って利用者の自立支援を目指した計画を立て、存在感を高めていけるとよいですね。
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居宅サービス計画書について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。
(専門家監修:矢野文弘 先生)