2018(平成30)年に完全移行が完了する、介護予防・日常生活支援総合事業ですが、その財源はどこから賄われているのでしょうか?
従来の介護保険事業との違いはあるのでしょうか?
事業主体が市町村に移行されたことによる影響はあるのでしょうか?
今回の記事では、介護予防・日常生活支援総合事業の財源について、以前の介護保険事業との違いについて分かりやすく説明したいと思います。
介護予防・日常生活支援総合事業に参入をお考えの皆様、ぜひご参考になさってください。
介護予防・日常生活支援総合事業のおさらい
まず、介護予防・日常生活支援総合事業(以下:総合事業)について、簡単におさらいしていきたいと思います。
総合事業の背景
団塊世代が75歳以上となる2025年には、単身の高齢者や、高齢者夫婦のみの世帯、認
知症高齢者の増加が予想されます。
そのような家族介護力を求めることが難しい状態で、介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域で出来るだけ長く住むことが出来るようにするために、市町村が中心となって、介護だけでなく、医療、住まいなどの包括的な支援が出来る、地域包括システムの構築が必要になっています。
総合事業は、介護保険制度における要支援者を地域ぐるみで支えるために、市町村が地域の特性を加味しながら提供するサービスです。
住民主体のサービスを提供することで、サービス費用の増加抑制が期待され、また、高齢者の社会参加の機会を増やし、介護予防事業を充実させることで、要支援・要介護状態に至らない高齢者の増加を目指して創設されました。
(厚生労働省 介護予防・日常生活支援総合事業の基本的な考え方 より抜粋)
総合事業の対象者
従来の要支援1・2に該当する者
介護予防の視点では、一般の高齢者(介護認定のない高齢者)も対象となります。
対象者であるかは、基本チェックリストを利用して判別されます。
認定の流れに関しては、以下の表をご参照ください。
(厚生労働省 介護予防・日常生活支援総合事業の基本的な考え方 より抜粋)
総合事業におけるサービス・内容
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訪問型サービス
訪問型サービスは現行の訪問介護サービスと同等ものと、それ以外の多様なサービス
から成り立ちます。
多様なサービスとは、雇用労働者が提供する緩和した基準でのサービスや、住民主体のサービス、移動サービス、医療・福祉の専門家が短期集中で行うサービスなどがあります。
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通所型サービス
通所型サービスについても、訪問型同様に現行の通所介護サービスと同等ものと、それ以外の多様なサービスから成り立ちます。
多様なサービスとは、雇用労働者が提供する緩和した基準でのサービスや、住民主体のサービス、医療・福祉の専門家が短期集中で行うサービスなどがあります。
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その他のサービス
配食サービス、住民ボランティアが行う見守り等があります。
介護予防・日常生活支援総合事業には様々な種類のサービスがあり、より地域性に沿ったサービスが提供できるようになっています。
そして、地域ぐるみで支えていくという方針のように、地域住民の力を利用したものも多いようです。
それでは、この事業を運営するための財源はどうなっているのでしょうか?
総合事業の財源は?
総合事業の財源の説明の前に、介護保険全体の財源について説明します。
公費は国庫負担金が25%、都道府県負担金が12.5%、市町村負担金が12.5%となっています。
75歳以上の高齢者率の高い市町村などは、負担が大きくなるため、国庫調整金等で格差を調整しています。
被保険者保険料については、1号被保険者、2号被保険者の人口で按分され、3年ごとに負担割合が変化します。
以下の図は、第6期(2015~2017年)は第1号被保険者が22%、第2号被保険者が28%の負担となっています。
詳しくは以下の表をご参照ください。
(厚生労働省 公的介護保険制度の現状と今後の役割 より抜粋)
介護保険は給付であるため、使用された分のサービス料をすべて支払う形になります。
実際には介護保険の利用の推移等を予測して予算案を立て、実際の給付があった分は予算以上であっても全額支給されます。
では、総合事業の財源はどのようになっているのでしょうか?
総合事業自体も介護保険制度の中の事業であるため、財源は変わりません。
上記の表と同じ財源から、給付されます。
しかし、総合事業には上限額が設定されていることが大きな違いです。
先ほど、介護保険は「給付」であるため、実際に利用された額すべてが、限度額なく給付されるとお話ししました。
しかし、総合事業においては、保険者となる市町村に対する給付の上限額が設定されており、給付額だけでは不足が生じた場合には、保健者である市町村が給付額を負担しなければならなくなります。
予算の額については、各市町村で前年の予防給付の額、予防給付の自然伸び率等を加味して、決めています。
※上限額の計算方法について
原則の上限
【当該市町村の事業開始の前年度の(予防給付(介護予防訪問介護、介護予防通所介護、介護予防支援)+介護予防事業)の総額】×【当該市町村の75歳以上の高齢者の伸び】
選択可能な上限
予防給付として残る給付(訪問看護・訪問リハなど)の伸び率が、75歳以上の高齢者の
伸び率を下回る場合には、下記の計算式を使用したほうが、上限額が上がります。
【当該市町村の事業開始の前年度の(予防給付全体+介護予防事業)の総額】×【当該市町村の75歳以上の高齢者の伸び】-当該通所の当該年度の介護予防給付総額
どちらの上限を選択しても良いことになっています。
上記計算で算出した上限額を超える場合は、個別に判断する枠組みを設けるとあります。
しかし、上限を超える場合とは、大規模災害等による介護給付の増加等の突発的事項について適用されると考えられます。
総合事業開始当時は上限額で収まり、不足になることは起こらないと想定されています。
しかし、高齢者伸び率と予測値のように推移するとも限らない為、予算内に収めるように単価を引き下げる、回数を制限するなどの措置がとられないとも言い切れません。
介護保険の財源のこれから
2035年には団塊の世代が、すべて75歳以上の後期高齢者となり、介護保険利用者の増加が見込まれます。
そのため、介護保険に必要な予算は増加する一方で、現在9兆円の介護費用が、2035年には20兆円にもなると試算されています。
さらに、生産人口の減少により、税収は減少していきます。
そこで、介護保険制度自体の見直しがさらにすすんでいくでしょう。
現在の介護予防・日常生活支援総合事業も、膨らむ介護保険料の抑制のために、介護予防に力をいれ、要介護状態にならない、もしくは要介護状態になるまでの期間を延ばす、要介護状態になっても住み慣れた地域(在宅)で出来る限り過ごすことを目的として始まっています。
今後の介護保険の展開としては、現状通り介護予防に力を入れた、在宅生活の推進が
行われると思われます。
上記のような取り組みを行っても足りない財源を補うために、要介護者においては、福祉用具や住宅改修等の費用の自己負担化(補助金の交付等)などの動きが出てくることが、予想されます。
また、要支援者だけでなく、要介護1・2の人も総合事業に移行するなどの流れも起こる可能性があります。
各サービスの単価自体も減額になる可能性もあります。
消費税の増税による財源確保も必須でしょう。
高齢者にとっても、様々な負担が大きくなっていくことが懸念されます。
まとめ
この記事では、介護予防・日常生活支援総合事業の財源について、介護給付との違いや、今後の展望について説明させていただきました。
財源自体は変わりありませんが、上限額が設定されていることが、大きな違いです。
今までのサービス単価より減額になる可能性が高いため、経営体制の見直しが必要になるかと思います。
いずれにしても、制度の改正に現場や社会がついていけるかどうかが、大きな問題となっていくのではないかと思います。
最後までお読みくださって、ありがとうございました。
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(専門家監修:矢野文弘 先生)