介護支援ブログ

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実地指導とは?行政処分などを詳しく解説

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 実地指導で行政処分が行われる場合をご存知でしょうか?

ここでは、行政処分が行われる場合について紹介していきますのでぜひ参考にしてください。

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1 実地指導とは

実地指導とは、行政が社会福祉施設や介護保険に関する指定事業等および施設を運営する社会福祉法人等に対し、適切な経営が実施されているかについて、実際に現地へ赴き、法的に定められた確認および指導を行うものです。

実地指導として実際に行政の監査員が施設へ立ち入り、施設の人員や設備等の確認をすることになりますが、必要な書面を事前に提出し、現況の確認のみ行う、いわゆる書面指導とする場合もあります。

実地指導の実施時期は各自治体によりばらつきはありますが書面による指導と交互で1~2年後に実施される場合が多いようです。

過去の指導にて指摘事項が多数に及んだ場合や改善が図られていないと判断された場合は、いわゆる監査として集中的な介入指導および返還含めた行政処分に至ることがあります。

2 実地指導による不正とは

本来、実地指導は、行政が制度管理のもと、事業者がより良いケアを提供していけるようアドバイスを実施していく機会と考えられています。

一方的に行政が事業者を取り締まる目的はないという前提があります。

しかしながら、不適切な事業運営のもと、利用する高齢者、障害者等の利益が損なわれるといった状況には徹底した行政介入があることも理解しておかなければなりません。

介護の社会化が提唱されて久しい昨今、介護事業者には、限られた社会保障財源のもと効率よく社会福祉を実現していく責務が求められます。

介護事業者が不正の指摘を受け、事業の是正勧告あるいは指定の取り消しを受けるケースが増加しています。

事業者が意図的な不正を働くのであれば、是正を積極的に図っていく必要がありますが、中には制度そのものの理解がない、不正の認識がない「意図しない不正」が多くあるようです。

そのためにも十分に制度を理解し、実地指導による指摘事項には真摯に対応する心構えが必要です。

ここでは、介護保険制度に関連した施設および在宅におけるサービス提供事業者について 、不正につながる指摘事項を確認していきましょう。

社会福祉施設および介護サービス提供事業所等への実地指導

実地指導による主な指摘事項としては

  • 介護サービス計画(ケアプラン)内容について、作成されていないもしくは利用者及び家族の同意が得られていない。
  • 提供するサービスの具体的内容が記録されていない。
  • 提供したサービス実績に基づき適正に介護報酬の算定がされていない。
  • 職員の勤務体制について、常勤、非常勤、専従と兼務、常勤換算等が予定と実績に基づき明確にされていない。

などが挙げられます。

利用者のニーズに応じたケアプランの作成等、ケアマネジメントの過程をしっかりと踏んでいることが重要です。

アセスメントやケアプランおよび支援経過等の記録にて、適切なケアの提供であることを示さなければなりません。

また、利用者の生命にかかわる観点、虐待や身体拘束について防止策がなされているかについても指導項目となっています。

実地指導の結果について同じ項目を再三指摘されると、不正とみなされ重い行政処分の対象とされてしまいますので十分な注意が必要です。

 

実地指導後の数週間以内に「指導項目」「改善項目」とその理由について記載された「実地指導結果報告書」が都道府県や市町村から事業所宛に送付されます。

その内容をふまえ、事業所内で各項目の改善に向けての取り組みを実行しますが1カ月以内にその改善結果を「実地指導に基づく改善結果報告書」としてまとめ、都道府県や市町村に提出します。

介護給付対象サービスについては、算定および請求に関し過誤が認められたときは自主返還として過誤申請の手続きを行い、指導のあった月から最長で5年分まで自主返還することになります。

事業所から実地指導に対する改善結果報告が行われない場合、過誤の点検後に適正な自主返還が行われない場合は、指定基準違反等の事実関係を確認するため、数週間以内に監査というかたちであらためて行政による介入が行われます。

監査について

監査に至るまでには、行政によって以下のように様々な事前情報が精査されます。

  • 各自治体が利用者や家族、介護関係者からの通報、苦情、相談に基づく情報
  • 国民健康保険団体連合会、保険者からの情報提供
  • 介護給付費適正化システムの分析にて特異傾向を示す事業者 等

事前の内定のもと実施されることになるため、「不正が行われている」という予見にて実施されるもので、限りなく黒であると判断された場合の処置であるといえます。

指定基準違反の内容等が関係法項目に該当することで、介護事業者については指定・許可の取り消し、または期間を定めて、その指定・許可の全部もしくは一部の効力の停止となります。

また、指定の取り消しについてはその旨が公示されることになります。

指定取消の事由としては、「職員の人員基準が満たないにもかかわらず減算せずに請求した」「利用者に対して介護計画書(ケアプラン)を説明・交付をしていない」「帳票類の提出に応じない(虚偽の報告)」等があげられます。

3 介護報酬等の返還

監査による指摘に伴う返還

監査の結果、行政上の処分に至らない軽微な改善を要すると認められ、これに係る介護給付費の過誤が認められる場合、監査による指摘事項に対して、事業所が自ら精査し、既に請求、受領した介護給付費について不正に該当する部分を自主返還するものです。

介護サービス計画書(ケアプラン)の作成交付がない状態でサービス提供を行った場合、当該利用者分の計画作成にかかる報酬のみならず、特定の事業所に対する加算全体も返還対象に含まれるため、不正期間が長いほど多くの返還が生じることがあります。

行政処分による返還

監査により、指定基準違反が認められ、事業の指定停止もしくは取消について、介護給付費の全部または一部について、返還金額(概算額)等の通知とともに不正利得の徴収として返還を命じられます。

不正が明らかになっても自主返還に応じない等のケースに対して、より強制的な処分であるといえるでしょう。

返還対象期間としては、原則2年間となります。

4 実地指導による返還事例

サービス種別 認知症対応型共同生活介護
所在地 新潟県長岡市
処分内容 指定の取消(H28.12.19)
処分理由 平成27年1月21日から平成28年5月サービス分までの15ヶ月間、人員基準欠如に伴う介護給付費の減算(3割)をすることなく不正に請求し受領した。
返還請求額 8,319,437 円(加算金含む)

 

サービス種別 通所介護 訪問介護 居宅介護支援
所在地 福岡県北九州市
処分内容 指定の取消(H28.12.22)
処分理由 ①通所介護、訪問介護
  • 居宅介護サービス費(介護予防サービス費)の不正請求があった。
    ※通所介護:人員基準違反(看護職員のうち1名を未配置)で運営していたが、介護報酬の減算(30%減)を行わずに不正な報酬請求を行った。
    ※訪問介護:訪問介護サービスを提供していないにも関わらず、サービス提供記録を作成し不正な報酬請求を行った。
  • 指定居宅サービス事業者(指定介護予防サービス事業者)が不正な手段により指定を受けた。帳簿書類提出・提示等を命ぜられた際、虚偽の報告、答弁を行った。

②居宅介護支援
  • 居宅介護サービス費の不正な請求事務を、法人役員でもある介護支援専門員が認識しながら、給付管理を行い、不正請求を幇助した。
返還請求額 通所介護 約8,270,000円 訪問介護 約120,000円(加算金含む)

 

サービス種別 通所介護 居宅介護支援 等
所在地 静岡県焼津市
処分内容 指定の効力停止(H29.1.5)
処分理由
  • 通所介護にて看護職員を適正に配置していなかったにもかかわらず減算せずに不正請求を行った。
  • 居宅介護支援事業所にて不適正な給付管理を行った運営基準違反があった。 等
返還請求額 約58,000,000 円(加算金含む)

5 実地指導の対策について

実地指導の通知が届いてから慌てて関連書類をチェックする等の準備を始めるというのでは、実際の業務に集中することができなくなりますし、時間がいくらあっても足りません。

通所介護や訪問介護などの在宅サービス事業者においては、日頃より居宅サービス計画書(ケアプラン)の内容に基づいて、介護保険被保険者証の認定期間に応じた「サービス提供計画書」等を作成し、その内容をもってサービス提供をおこなっていることを利用者とその家族へ説明同意を繰り返しおこなっていくことが何よりの対策となります。

サービスの提供にあたっては支援経過をしっかりと記録化することが大切です。

常に提供した日時とともに、時系列でサービスの提供が明示できるようにします。

あくまで提供の実績に基づいた報酬請求を行っていきます。

サービス提供事業所においては、職員の常勤換算を毎月チェックするとともに、予定と実績を明確にしておく必要があります。

職員配置に応じた加算項目については、算定方法を熟知しておくことが大切です。

実地指導により指摘された事項については、速やかな対応が求められます。

時間の経過は、場合によって虚偽・隠蔽と捉えられ、より重い行政処分等、事態の悪化を招くことがあります。

真摯に対応していきましょう。

 

○対策に関する詳細はこちら

介護保険施設等 実地指導完全対策 - 介護支援ブログ

6 まとめ

実地指導は過剰に「構える」必要はありません。

日頃から事業所としてのコンプライアンスを明確にし、職員一人ひとりがポイントを抑えておけば「不正」という判断を受けることはないと思います。

また、それができる事業所は利用者に対し質の高いサービスを提供できるのではないでしょうか。

実地指導においては事業所の課題が自ずと浮き彫りになります。

そのことを自覚し、行政としっかりとコミュニケーションを重ねることが、実は最大の防御なのかもしれません。

 

 

実地指導について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

(専門家監修:矢野文弘 先生)

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