要介護・要支援者の増加やニーズの多様化に伴い、総合事業などの給付対象外の介護サービスが拡充していくことと思います。
「お泊りデイサービス」(以下、お泊りデイ)もその一つ。
女性の社会進出、核家族化、老々介護など、様々な背景が考えられますが、お泊りデイのニーズは今後も拡大していくとみられています。
今回の記事では、そのお泊りデイの運営基準に関して詳しく説明していきます。
一読し、今後の経営にお役立てください。
運営基準とは
介護サービスにおける運営基準とはどういったものなのか、簡単に説明します。
事業所がサービスを提供するにあたり、そのサービスの種類によって、厚生労働省、あるいは各自治体によって定められているルールの一つを指します。
これには職員の人員配置基準や利用者の定員、利用者一人あたりの床面積、設備基準、事業を運営する上での規則等、多くの決まりがあります。
運営基準をしっかり満たしていれば通常問題はありませんが、実地指導時に備えて、証明できるように記録として残しておきます。
逆に、事業所の開設時はすべて基準を満たしていたが、途中から職員の確保が難しくなり、人員基準を満たせなくなった、などの理由で運営基準を満たせなくなると、介護報酬の減算の対象となります。
お泊りデイの運営基準
自主事業としてのお泊りデイ
お泊まりデイは、昼間に行われているデイサービスと違い、自主事業として取り扱われます。
それゆえ以前は運営方法や職員の人員基準、設備基準が特に定められておらず、サービス提供事業所が自由に決めていました。
つまり利用料の他、利用者1人あたりの床面積や、どういった資格を持つ職員が何人で夜勤をするかについても、特に規則はありませんでした。
また、事業を始めるにあたり、自治体に事業者指定の申請をする必要もなく、お泊りデイを提供する事業所の質には、大きなばらつきがありました。
利用者やその家族は、これらのサービスについて、事業所と直接契約を結ぶことになります。
お泊りデイ増加の背景と問題点
需要の高まりと共に増え続け、2016年時点で、全国に約6000ヶ所あるともいわれるお泊りデイ。
この増加の背景は何でしょうか?
まず考えられるのが、ご家族少人数で在宅介護をしているということが挙げられます。
一世帯あたりの子供の人数が減り、子供世代と同居している高齢者が年々少なくなっています。
そのため、夫婦間で介護し合う、あるいは平均寿命が延び、既に高齢者となった子供が、さらに高齢の親の介護をするといった、老々介護も増えています。
こうなると在宅介護者であるご家族の1人や2人に大きな負担が集中し、体力的にも精神的にも厳しい状態に陥ります。
特に認知症のある高齢者の介護において、夜間の徘徊はとても大きな問題です。
介護者であるご家族はまともな睡眠もとれず、体調を崩したり、気力を消耗したりしてしまいます。
介護保険においては在宅介護を中心の柱としているので、このような場合のためにショートステイサービスを創設しています。
要介護者がショートステイ利用中に、ご家族はゆっくり休息し、リフレッシュしてから在宅介護を続けていくことができます。
ところが、実際にはショートステイに空きが少ないのが現状です。
また、早くから申し込んでおかないと予約がすぐに埋まってしまいます。
主な介護者の手術や入院等の緊急時用にベッドは確保してありますが、少し体調が思わしくない程度では急に予約を入れることは難しいです。
そのため、直前でも予約しやすいお泊りデイは、ショートステイ利用より融通が利くといえます。
これはギリギリの状態で介護を続けているご家族にとって、とてもありがたいことです。
次に考えられるのが、お泊りデイには運営基準がないということです。
つまり、事業者にしてみれば事業参入のハードルはぐっと低くなります。
日中のデイサービスを行っている事業所が、この施設や設備を利用し、食事の提供と夜間の見守りができればお泊りデイの利用者を受け入れることができます。
しかし、日中のデイサービスとセットで提供するという点においては否定的な意見も多くあるようです。
実際問題として、お泊りデイの利用料は食費込みで1回800円〜3,000円が相場ですので、これでは毎晩大人数を受け入れないと採算が合いません。
介護保険が適用される日中のデイサービスを上限まで使い、それからそのままお泊りの利用にすることで採算を合わせていることは、仕方のないことかもしれません。
逆にメリットとしては、特に認知症のある利用者にとって、既に知っている場所(日中のデイサービスの施設)と知っている顔(デイサービスの職員)であれば夜間不穏がひどくなりにくいことが挙げられるのではないでしょうか。
このように、ショートステイの不足による介護者の切羽詰まった需要の高まり、そして自主事業であるために事業所によってサービスに差があるという2つの問題が指摘されています。
多くの事業所は、利用者やご家族のためにできる限りのサービスを提供されていると思います。
しかし、防火設備を整えていない、事故が起きても記録をしっかりとしていないなど、悪質な事業所があることも事実です。
厚生労働省はこの問題に対応するため、2015年(平成27年)4月にお泊りデイ運営に関するガイドラインを作成しました。
お泊りデイの運営基準
このガイドラインは「指定通所介護事業所等の設備を利用し夜間及び深夜に指定通所介護等以外のサービスを提供する場合の事業の人員、設備及び運営に関する指針について」というタイトルですが、以下『ガイドライン』と記載して、要点を説明します。
1. 人員基準について
これまでは1人〜複数人の利用者に対し、夜勤者は1人で対応する事業所がほとんどだったと思います。
また、日中のデイサービスの職員がシフトで行うことが多かったと思いますが、夜勤専門に介護の知識の無い職員を雇用することも可能でした。
ガイドラインでは、介護職員や看護師を常時1名以上設置し、介護職員については、介護福祉士の資格保持者や実務者研修、介護初任者研修を修了している人が望ましいと記載されました。
また、お泊りデイの責任者は、実際に宿泊サービスに従事する職員の中から選ばれることになります。
2. 設備基準について
利用定員は、日中のデイサービスの定員の半分以下にし、最大でも9人までとなりました。
また、個室は1名で利用が基本ですが、利用者が希望すれば2名までの利用となっています。
これは夫婦で利用する場合などを想定しているのでしょうか。
相部屋は最大4名になります。
1室あたりの床面積は最低7.43平方メートル、畳でいえば4畳以上、部屋でいうと4畳半は確保することになります。
その他、消防法に定められているスプリンクラーや火災報知器、消火器などの防火設備を設置し、災害時に対応できるよう、ペットボトルの水や保存食、懐中電灯といった備品の備蓄も推奨されています。
3. 運営基準について
お泊りデイサービス利用開始時に、夜勤職員の勤務体制やサービスの内容、利用金額など重要な事柄についてあらかじめ説明し、同意を得ます。
つまり、きちんとサービスの中身について説明し、お互いに納得した上で契約を結んでください、という意味です。
またサービス利用時に内容や利用者の様子について記録し、利用者やご家族からの要求があった場合には、記録を提供します。
連続して4日以上利用する場合や、定期的に繰り返し利用する場合には、宿泊サービス計画書を作成します。
その他にも、長期にわたる利用時にはケアマネージャーと連携を取ること、緊急時や災害時の対応マニュアルを作って介護職員に周知させておくこと、事故がおきた場合の対応の記録を整備することなど、ガイドラインに細かく記載されています。
罰則
細かく記載されているといっても、これらの運営基準はガイドラインであり、強制力はなく、運営基準を満たしていないとしても罰則等はありません。
しかし悪徳な事業所に対応し、サービス向上に繋げていこうという趣旨で作成されたガイドラインですから、それに沿った運営がなされることが好ましいのは当然です。
また、入所施設ではない、一時的なサポート事業という本来の趣旨から、緊急時や短期的な利用に限り、長期に及ぶ時にはケアマネージャーが他の入所施設や介護サービスを利用できるようにケアプランを変更する必要もあります。
東京都のお泊りデイの運営基準とは
厚生労働省のガイドラインは、明確な運営基準ではなく罰則もありませんが、例外として大阪府や愛知県、東京都など一部自治体では明確な運営基準を設けているところもあります。
その一例として東京都におけるお泊りデイサービスの運営基準について解説します。
東京都における制度の仕組み
東京都は厚生労働省に先駆け、『東京都指定居宅サービス事業の人員、整備及び運営基準に関する条例』を施行して都に届け出る仕組みを作り、その内容に関して公表してきました。
2015年(平成27年)に厚生労働省がガイドラインを作成したことに伴い、改正が行われています。各項目において厚生労働省のガイドラインよりも具体的に定められています。
まずは、お泊りデイを提供している指定通所介護事業者は、 宿泊サービスの運営内容を届出ます。
これによって、都のホームページ『東京都介護サービス情報』などでも届出内容の一部が公表されます。
内容がよくわからないお泊りデイ事業者より、届出を済ませ、内容を公表している事業者の方が、利用者としても信頼できます。
運営基準をすべて満たしているか否かに係わらず、必ず届出を行わなければなりません。
また、その内容に変更があった場合には、10日以内に変更届出書を提出します。
東京都における運営基準
1. 人員基準について
厚生労働省のガイドラインに準じており、介護または看護職員を常時1名以上配置することになっています。
宿直は夜勤職員としてカウントできません。
また、見守りや介助が必要になる食事提供時などには、利用者の人数に応じて、複数の職員を配置する方が好ましいとされています。
2. 設備基準について
厚生労働省のガイドラインに準じています。
利用者1人当たりの床面積は同じです。
利用定員に関して、以前は「指定通所介護事業所等の利用定員 の1/2以下」となっていましたが、ガイドラインに合わせ、「指定通所介護事業所等の利用定員 の1/2以下かつ9人以下」に変更されています。
3. 運営基準について
厚生労働省のガイドラインに準じていますが、東京都では事故発生時の対応についても、細かく決めており、以下のようになります。
- 事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録は2年間保存すること。
- 宿泊サービスの提供により事故が発生した場合の対応方法に ついてあらかじめ事業者が定めておくことが望ましい。
- 速やかな賠償のために損害賠償保険に加入しておくか、又は 賠償資力を有することが望ましい。
- 事故が発生した際にはその原因を解明し、再発生を防ぐため の対策を講じること。
このように具体的な指針があれば、事業所としてもお泊りデイサービス提供時に気を付ける点や準備しておくべきことが明確になり、計画や運営方針を立てやすくなります。
また、長期においての利用は適切でなく、ケアマネージャーや区市町村と密接に連携し、他施設への入所を含めて、他の介護保険サービスを提供するなど、対応を取るように定められています。
まとめ
このように、お泊りデイについての全国的なガイドラインはありますが、自治体によって異なる点もあるので確認が必要です。
国は規制の方向へばかり進むのではなく、その背景となっているショートステイの不足や、家族構成の変化による家庭内の介護負担増などにも目を向けてほしいものです。
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運営基準について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。