皆さんは、度重なる介護報酬改定毎に、処遇改善加算も変化しているのをご存じでしょうか。処遇改善加算とは、介護職員のみならず、その事業所の運営に大きく影響してくる大切な加算のひとつです。今回は、処遇改善加算について詳しく紹介していきたいと思います。今後、加算をとろうと考えていらっしゃる方は一読お願い致します。
福祉・介護職員処遇改善加算とは
概要
処遇改善加算とは、読んで字の如く、介護職員のパフォーマンスに見合った給与アップを、月額上乗せさせるために、平成24年度から介護報酬に創設された制度です。これは、平成23年度まで実施された※「介護職員処遇交付金」が元になっています。
※介護職員処遇改善交付金
平成21年度の介護報酬改定によって、処遇は上方修正されましたが、他の業種と比べて、賃金格差がまた見受けられたため、介護職の離職に歯止めをかけることが難しい状況でした。これらを改善するべく、介護職員の処遇改善に取り組む事業所へ、資金を交付し、介護職員の処遇改善を狙った交付金のこと。
処遇改善加算についてはこちらも参考にしてください。
処遇改善加算の目的として、介護職員の給与改善に伴う職定着が挙げられます。しかしながら、介護職の離職率についてみなさんはどの程度ご存じでしょうか。
実のところ、介護職の離職率というのは、特別高いという訳ではありません。むしろ、宿泊業、飲食サービス業などの対人サービス業務に従事している人のほうが圧倒的に離職率は高く、その離職率は平成25年で脅威の30%を超えています。その点、医療福祉の離職率は、13.9%と、半分以下ですので、この離職率を理由に、「あえて処遇を改善しなければならない」という結論にはなりません。
介護職を辞めた理由の多くは、職場の人間関係、事業所の運営方針など、雇用管理を原因とする離職理由が多いという結果があります。
つまり、処遇改善加算というものは、表向きでは「給料を上げるからみんな頑張ろう!」といったものですが、処遇改善加算を算定するために必要な事業所体制を整えることは、ある種、働きやすい事業所を作るといったことにも繋がります。どちらかというと、介護職のイメージを変えるためというよりは、介護業界特有の人材問題を変えるための処遇改善加算と見て取っていいでしょう。
他にも、これからの社会は、2025年には1/4が高齢者、2042年には高齢者数3900万人という恐ろしい時代が必ずやってきます。そのためには、地域包括ケアシステムが稼働し、地域での支え合いのサポート体制を作る必要がありますが、変化に柔軟に対応できるような人材を確保していく必要があります。
そのために、求職者が働きやすい、プロ意識、やりがいをもって働けるような職場環境を目指す必要がありますので、こういった社会背景の問題を解決するために作られた制度ともいえるでしょう。
平成27年(2015年)の制度改定について
改正変更点
平成26年度までの処遇改善加算は、加算の種類が3種類で加算Ⅰ・加算Ⅱ・加算Ⅲでしたが、これを、平成27年度からは、「加算Ⅰ」「加算Ⅱ」「加算Ⅲ」「加算Ⅳ」の区分分けに変更しています。従来の加算Ⅰは、新設された加算Ⅱに。従来の加算Ⅱは新設された加算Ⅲに。従来の加算Ⅲは、新設された加算Ⅳへと算定要件が変更になっています。
改正前の賃金改善イメージ
平成27年度の改正では、月額最大27000円の給与アップが期待されていました。一般には介護職には人材が集まらない状況が続いている状況が理由の1つとして挙げられます。そのため、現在働いている介護職員に負荷が極点化し、そのスタッフ一人当たりへの労働力が多すぎるという問題が頻出しています。そのため、現場のスタッフからは「労働力に見合ったサラリー」を求める声が少なくありません。
平均給与額の変化
平均して給料は増えた、しかし労働力の対価としてはまだ充足しない。ということが現場の正直な感想ではないでしょうか。
そもそも、処遇改善加算とは、対個人に対しての加算ではなく、対事業所に対する加算ですので、加算算定が算定できたとしても、その加算分上乗せされた賃金を、どのように振り分けるかは事業所運営側次第になります。そのため、実際には増えていないと感じる人もいれば、目に見えて増えたと思う人様々です。
さらに、ここ数年は、介護報酬改定毎に、処遇改善加算が上方修正され、徐々に給料も上がっている傾向にありますが、実際には、高齢者の数もうなぎ上りで増加しており、一人当たりが抱えなければならない利用者の数も毎年増えてきているのも現状です。
よって、当初の処遇改善加算のイメージが、そのまま介護職員に汎化されてはおらず、平行線を辿っている、高齢化社会に対して応急的な対応に留まっているといっても過言ではないでしょう。
処遇改善加算の現制度について
対象サービス
以下に表をまとめていますのでご参照ください。
サービス |
加算Ⅰ(%) |
加算Ⅱ(%) |
加算Ⅲ(%) |
加算Ⅳ(%) |
訪問介護 |
8.6 |
4.8 |
加算Ⅱの90% |
加算Ⅱの80% |
訪問入浴介護 |
3.4 |
1.9 |
||
通所介護 |
4.0 |
2.2 |
||
通所リハ |
3.4 |
1.9 |
||
地域密着型通所介護 |
4.0 |
2.2 |
||
短期入所生活介護 |
5.9 |
3.3 |
||
短期入所療養介護(老健) |
2.7 |
1.5 |
||
短期入所療養介護(病院) |
2.0 |
1.1 |
||
特定施設入居者生活介護 |
6.1 |
3.4 |
||
介護老人福祉施設 |
5.9 |
3.3 |
||
介護老人保健施設 |
2.7 |
1.5 |
||
介護療養型医療施設 |
2.0 |
1.1 |
||
定期巡回・随意時対応型訪問看護 |
8.6 |
4.8 |
||
夜間対応型訪問看護 |
8.6 |
4.8 |
||
認知症対応型通所介護 |
6.8 |
3.8 |
||
小規模多機能型居宅介護 |
7.6 |
4.2 |
||
認知症対応型共同生活介護 |
8.3 |
4.6 |
||
地域密着型特定施設入居者生活介護 |
6.1 |
3.4 |
||
地域密着型介護老人福祉施設 |
5.9 |
3.3 |
||
複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護) |
7.6 |
4.2 |
また、対象外サービスは以下の通りです。
「訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、福祉用具貸与、介護予防訪問看護、介護予防リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防福祉用具貸与、居宅介護支援」
対象職種
対象職種は以下の職種になります。
- ホームヘルパー
- 生活支援員
- 児童指導員
- 保育士
- 職業指導員
- 地域移行支援員
- 就労支援員
- 訪問支援員
- 介護職員
※一般に、介護事業所などでは、介護職員に多く処遇改善加算のプラス分が振り分けられる傾向があるようです。実情、介護士の人材不足が慢性的ですので、処遇改善加算は、介護士が優遇されるケースが多くなっています。
算定要件
算定要件については、キャリアパス要件を満たす必要があります。
キャリアパス要件とは
キャリアパス要件とは、厚生労働省によって定めされた、より充実した事業運営のためのルールのようなもので、以下のように定められています。特に処遇改善加算Ⅰについては、キャリアパス全て満たす必要がありますので、注意してください。
キャリアパスⅠ
1) 介護職員の任用の際における職位(役職)、職責、または職務内容に応じた任用等の要件を定めていること 2) 1に掲げる職位(役職)、職責または職務内容に応じた賃金体系について定めていること 1、2の内容について、就業規則などのもので書面で明確にし、周知していること |
キャリアパスⅡ
次の1または2の条件を満たした計画を作成していること 2)資格取得のための支援を行うこと |
処遇改善加算の加算要件については、加算種別によって満たすべき要件が違いますので、下記を参照にして下さい。
算定届出
算定の届出については、いくつか注意点があります。処遇改善加算の届出は、算定を受ける毎年度ごとに届出をする必要があります。そのため、前年度加算の算定を受けていたとしても、今年度の届出がない場合は加算の算定を受けられませんので注意してください。
また、平成28年4月から算定を行う場合は「介護職員処遇改善計画書」等の届出を平成28年2月29日までに行う必要があります。
(詳しくは各都道府県のホームページをご参照下さい。)
まとめ
今回は、処遇改善加算について紹介いたしました。
平成27年から新設された処遇改善加算ですが、平成29年からはさらに加算が上方修正され、システムもより複雑になっていきます。介護職員の慢性的な人材不足の改善、定職化を図るための重要な加算のひとつですが、皆様の事業所は、うまく処遇改善加算を取り入れることができているでしょうか?
先述しましたが、介護職員の定職化は、働きやすい職場環境です。給料がよいことはもちろんですが、1番は働きやすく、やりがいのある職場を作るということです。今一度、処遇改善加算を改めて熟知し、事業所の在り方を考えてみてはいかがでしょうか。今回の記事が参考になりましたらシェアをお願い致します。
処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。