介護事業者の皆様、新しい総合事業への対策は万全でしょうか?厳しい対応を迫られた事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。しっかりと把握して総合事業の対策を練り、経営の安定・拡大を図ることが最善かと思います。この記事では、新しい総合事業への移行にあたり、福祉用具貸与/販売事業がどのように変化していのかをご説明していきます。今後の戦略の手助けになることができれば幸いです。
総合事業のおさらい
まずは、総合事業の定義を簡単におさらいします。総合事業とは平成27年度の介護保険の法改正にともなって、地域支援事業の再編が行われ、新しく導入された「介護予防・日常生活支援総合事業」を指します。要支援や要介護の認定を受けていない高齢者に行われていた地域自治体の生活支援サービスと、要支援1と要支援2の介護認定を受けている方を対象とした予防給付にあたる部分を合体させた事業です。
自治体、ボランティア、高齢者自身、NPO等が一体となって、地域の高齢者が要介護状態になるのを防ぐようなサービスを充実させることが目的です。
しかしながら、介護保険から市町村主体の事業に移行させるということは、介護保険の財源からではなく、市町村の財政から拠出させることで、全体的な社会保障費を抑制していこうという狙いも意味しています。
移行事業そのものについて、もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。
総合事業による福祉用具への影響はあるのか?
福祉用具の貸与や販売をされている事業者の皆様は、この総合事業が実際に福祉用具に関して影響を及ぼすのか、気になるところだと思います。サービスの種類により事業者へのインパクトの違いがありますので、総合事業のサービスの種類について少し解説します。
まずは、これまでの要支援対象者のうち、基本チェックリストを用いることで要支援認定者と介護予防・生活支援サービス事業対象者に分けます。地域包括支援センターが中心となり介護予防ケアマネジメントを行い、総合事業の部分においては、以下のサービスが提供されていきます。
介護予防生活支援サービス事業
これは、訪問型・通所型サービスとその他の生活支援サービスの2つに分けられています。訪問型とはいわゆるホームペルパー、通所型とはデイサービスなどがこれにあたります。総合事業施行前まで、これらの予防給付を行っていた訪問介護事業所や通所介護事業所には大きな影響があります。
例えば、訪問介護においては、4つに分類されています。
①現行相当型訪問介護
②訪問型サービスA (基準緩和型)
③訪問型サービスB (住民主体型)
④訪問型サービスC (短期集中予防型)
⑤訪問型サービスD (移動支援)
訪問介護のサービスの継続が必要と判断されれば、①に分類され、これまでのようなホームヘルパーによるサービスが実施されます。②〜⑤においては、自治体による多様なサービスとして位置づけられているため、基準や報酬が自治体によって決定されます。このように、今まで予防給付を行っていた訪問介護事業所や通所介護事業所には大きな影響があります。
その他の支援サービスには、栄養の改善を目的とした食事の宅配サービスや、安否確認サービスなどがあります。
一般介護予防事業
一般の高齢者も要支援者認定を受けている方も、誰でも参加できる高齢者向けのプロ グラムとなります。ボランティアが運営するカラオケ教室、喫茶など、市民が中心となって非営利に提供していくものです。
以上のように、福祉用具は総合事業の対象となっていません。地域包括支援センターが介護予防ケアマネジメントを行うところまでは同じですが、要支援1以上の認定を受けた方への訪問看護と福祉用具の貸与や販売に関しては、人員基準や運営基準が全国一律のままで、介護予防から変更はありません。
総合事業移行後の福祉用具貸与/販売の利用について
サービスの対象者
介護保険を使って、福祉機器の貸出や販売のサービスを受けることができるのは、介護保険の新規または更新の届出をした後、要支援1以上の認定を受けた方のみです。
つまり、介護予防・生活支援サービス事業対象者と判断された方、あるいは一般の高齢者は基本的に対象となりません。このうち、要支援と要介護1の認定を受けた方は、要介護2以上の方と比べ、利用できる福祉用具貸与の品目には制限があります。(個々のケースにより例外が認められることもあります)
料金(誰がどれだけ負担するのか)
福祉用具の貸与の場合は、介護保険適用とみなされれば、対象品目が1割の自己負担で利用できます。例えば月々のレンタル料金が5,000円と仮定すると、本人負担は500円となります。利用者の介護度やニーズは随時変化するので、それに合わせて最適な介護機器を選択する必要があることから、基本的にレンタルであることが多いです。
利用者がレンタル対象のものを購入したい場合、介護保険は適用されず全額自己負担です。
介護保険を利用する場合、年度ごとの限度額は10万円と定められています。手続きの際、介護保険が適用できると判断されれば、本人負担は1割で済むこととなります。
また、購入時に一旦全額自己負担し、後に申請をすることで9割返還してもらうことができます。購入の対象品目は、入浴や排せつに関する機器など、レンタルで再利用することに抵抗のあるものが主なものとなっています。
プロセス
介護保険申請→要支援1以上認定→ケアマネジャーによるケアプランの作成→福祉用具専門相談員による福祉機器の適合・使用説明→モニタリング・使用状況の確認→計画の見直しとなっています。これも、総合事業移行前と変わりがありません。
福祉用具貸与/販売の今後
2018(平成30)年の改正で、福祉用具の位置づけや利用者負担なども変わってくることと思います。上で説明したように、今のところ、要支援1以上の認定を受けていれば、一部の福祉機器の貸与、排せつや入浴時に使う特定福祉用具販売、そして、手すりの設置や段差解消といった住宅改修もわずかな本人負担で利用することができます。しかし、福祉用具貸与/販売のサービスを利用する人が年々増え続けており、それに伴う介護保険からの支出を抑えようということが、この平成30年の改正に盛り込まれる見込みとなっています。
現在、要支援1から要介護2までの「軽度者」が、福祉機器サービス利用者全体の6割にあたります。そこで、この要支援1から要介護2までの認定者を対象に、福祉用具貸与、特定福祉用具販売および住宅改修について、原則自己負担にしようというものです。自己負担額の軽減などを図るため、高齢者本人が福祉用具の品質や価格を比較して貸与または購入を決断する必要が出てくるでしょう。
まとめ
福祉用具貸与/販売の事業者におかれては、平成30年に向けて対策を練っておく必要があります。また、介護保険における福祉用具の貸出や購入への適用というのは、そもそも高齢者が在宅でできるだけ長く生活していけるようにサポートするためのサービスであったはずです。これが要支援1〜要介護2までの方に適用されなくなり、全額自己負担になると、経済的に大きな負担となり、場合によっては福祉用具の利用そのものを諦めてしまうことになります。なんとか自宅で頑張っている方への支援が減れば、介護度が早く上がってしまうことも予想されます。
総合事業について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。
(専門家監修:矢野文弘 先生)