介護事業者の皆様、ご自身の介護事業所では個別機能訓練加算を算定されているでしょうか。
平成27年度の介護報酬改定や総合事業などの近年の介護の在り方にて、度々ピックアップされているこの加算ですが、厚生労働省が発令している公式文書は非常に難しく、読むだけで疲れてしまう、全部は理解できていない、そんな状況の方も多いのではないかと思います。
今回は、そんな個別機能訓練加算について、わかりやすくまとめてみました。この加算を算定しようとしている介護事業者の方はもちろん、既に算定されていて見直しがしたい方、これから介護事業に参入しようとしている方はぜひご覧ください。
個別機能訓練加算とは?
要介護状態の悪化予防のため住み慣れた地域での在宅生活をできるだけ維持し安全に継続することを目的としています。介護サービスの通所介護費・短期入所生活介護費・特定施設入居者生活介護費における算定です。
要するに、デイケア・デイサービス・ショートステイ・有料老人ホームなどの施設内でリハビリを行い人員配置や要件をクリアすれば毎日ごとに加算がもらえます。この加算にはⅠとⅡがありますが共通して言えることは、機能訓練指導員等がその利用者の身体機能・生活機能の維持向上を目的とし、訓練していきます。
目的を達成するために、問題点把握・計画書作成・実施後の記録・モニタリングを行わなければいけません。その事業所の機能訓練指導員やその他の職種ともにカンファレンスも必要です。全員で情報共有しなければ、よい訓練はできないでしょう。
平成27年度の介護報酬改定で変わったこと
こちらでは、平成27年度に実施された改正での変化事項についてまとめました。
表1
平成27年まで |
平成27年以後 |
個別機能訓練加算Ⅰ 42単位 個別機能訓練加算Ⅱ 50単位 |
個別機能訓練加算Ⅰ 46単位 個別機能訓練加算Ⅱ 56単位 新たに人員配置・実施者・訓練内容・ⅠとⅡの目標の違いなどが設定 ※表2を参照 |
個別機能訓練を行う場合は、開始時とその後3か月に1回以上利用者または家族に内容を説明し記録する。その際、目標の見直しや訓練内容の評価や変更するなど適切な対応をとる。 |
個別機能訓練を行う場合は機能訓練指導員等が居宅を訪問し生活状況を確認したうえで計画書を作成。見直しは3か月に1回以上居宅を訪問し評価・進歩状況を説明する。 |
同一日であってもⅠとⅡを訓練していれば同時算定できる。この場合Ⅰの常勤専従の機能訓練指導員とは別にⅡに携わる機能訓練指導員の配置が必要。 |
左記内容に加え、Ⅰは身体機能への働きかけによるものだがⅡは心身機能とADL・IADL活動、社会参加に働きかけるものである。それに基づき適切な訓練を行う。 |
上記のように、同時に算定できれば1日に102単位と大きな加算です。
個別機能訓練加算ⅠとⅡの共通点と必要なこと
提出までの流れ
加算の届出の前に利用者本人またはその家族へ加算の説明、理解を得ることが必要です。毎月の利用料が増えるので書面にて具体的にいくら値上げされるか、どの様な訓練が受けられるのかなど口頭で説明、同意を得ましょう。書面には必ず利用者または家族の署名・捺印が必要です(重要事項説明書に記載がある場合は必要ありません)。
さらに、個別機能訓練計画書を交付します。
そして、担当ケアマネへの早めの通知も忘れずに。サービス計画書へ反映されるので担当者会議が必要になると思います。招集するのはケアマネなので確認します。
算定したい月の2.3ヶ月前から準備しましょう。通知が遅くなるとケアマネと利用者へ迷惑をかけてしまいます。
記録方法
実施するに当たり興味関心チェックシート・居宅訪問チェックシート・個別機能訓練計画書・実施記録が必要です。個別機能訓練を開始するに当たり利用者の生活の問題点やその人を知ることが必須になります。
興味関心チェックシート
普段忙しくて中々聞き取れない情報が収集できます。その人の好みや性格、趣味、人生観などを新たに知り、訓練内容にうまく活用していきましょう。例えば我慢強い人であるならば、無理をしないように訓練中にこまめに声掛けしていくことが必要です。
居宅訪問チェックシート
利用者の居宅を訪問し、IADLや生活動作に関して困っていること、問題点など新たに知ることができます。トイレや浴室などの整備・環境もチェックし訓練内容に取り入れます。玄関先などではなく必ず中まで入りましょう。口頭で聞いていた環境と全く違っており、すぐに環境の改善が必要になることもしばしばあります。
個別機能訓練計画書
機能訓練指導員が訓練の長期短期目標・実施時間・プログラム内容など記載した計画書を作成します。通所介護計画書の中に個別機能訓練内容を組み込んで1枚にしても厳密には良いのですが、作り直す期間が違いますので更新時期がずれてややこしくなってしまいます。実地指導や監査の時にも混乱する原因になりかねないので別々の様式を使用することが望ましいです。
必ず利用者または家族の署名とケアマネへの送付が必要です。
実施記録
個別機能訓練計画書に沿った内容の訓練を実施した記録は必ず毎回残しておきましょう。
実施時間・訓練内容・担当者名・利用者の心身の状態など記入します。記録用紙は利用者ごとにまとめ、機能訓練指導員等がいつでも閲覧し情報共有できるようにする必要があります。
計画、評価の実施期間
3か月に1回以上計画の見直しと評価を行い記録する。3か月ごとに計画書を作り直し利用者への説明・署名をもらう。
見直しの際には3か月に1回は機能訓練指導員等が居宅を訪問し再アセスメントしなければいけません。訪問とはデイサービスの送りを兼ねても可です。こちらを見落とす事業所が多いようです。
個別機能訓練加算ⅠとⅡの違い
個別機能訓練加算ⅠとⅡでは機能訓練指導員の配置や、リハビリの目的、訓練内容、規模などが変わってきます。ちなみにここで言う機能訓練指導員とは身体の機能について深い知識のある者を指します。具体的には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・准看護師・柔道整復師・あんまマッサージ指圧師のいずれかの資格がある職員です。
そして、看護師が機能訓練指導員として配置した場合の看護業務は同時にはできないので別の看護師を配置しなくてはいけません。また、機能訓練指導員等と記載されている場合は介護福祉士・介護士・生活相談員でも可です。
細かな違いについて、以下にまとめましたのでご参照ください。
表2
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個別機能訓練加算Ⅰ |
個別機能訓練加算Ⅱ |
目的・目標 |
座る・立つ・歩くなど 身体機能の維持向上 例:全体体操で座位・立位のプログラムを組み実施する 1人で靴が履ける、独歩で5メートル歩くなど |
①身体機能のみならず精神の働きも含む心身機能の維持向上 例:他者との交流、家族へ電話する ②ADL・家事・職業能力や屋外歩行といった生活行為全般の活動 例:料理する、買い物へ行く ③家庭や社会生活にて役割を果たす「参加」など生活機能の維持向上 例:囲碁サークルへ参加 |
実施者 |
機能訓練指導員等 |
機能訓練指導員が直接実施 |
単位数 |
1日46単位 |
1日56単位 |
人員配置 |
常勤の理学療法士等1名が機能訓練指導員のみに従事し提供時間内終日の配置。 →非常勤の理学療法士等が配置されていても常勤が欠勤・遅刻・早退した曜日は算定不可 |
機能訓練の実施時間内に勤務し機能訓練指導員のみに従事する職員が1名必要。 →実施時間内に勤務していれば遅刻・早退しても算定可能 非常勤の職員でも良い |
訓練内容 |
筋力の維持向上や可動域を広げるなど日常生活がより充実するように複数の機能訓練項目を準備。 |
ADLのみならずIADLも考慮し可能な限り自立していけるよう生活機能の維持向上に関する段階的な目標を設定。例えば一人で入浴したいのであれば3か月間で達成できるよう実践的な訓練を繰り返し行う。 |
実施範囲 |
具体的人数の特記なし グループに分かれて実施 |
個別対応もしくは5名程度以下 |
実施環境 |
特記なし |
施設内では畳のある居室・浴室・調理場など目標に沿った環境 |
見てわかるとおりⅠよりもⅡの方がより難易度が高くなっています。
人員配置などⅠの方が条件厳しいのに、Ⅱの単位数のほうがなぜか高いのです。
これは、Ⅱの方がより実践的でコアな内容であるからと考えられます。
表にあるIADLとは手段的日常動作のことです。例えば料理をする、家族にメールする、交通機関を使って買い物に行くなどです。
届出申請の手順
- 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書(加算届)
- 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
- 機能訓練指導員の資格証を適用月の前月15日までに関係機関(都道府県・市区町村など)に郵送にて提出
提出期限や届出方法は(窓口や郵送など)関係機関により異なるため問い合わせておきましょう。
よくあるQ&A
Q1:個別機能訓練加算Ⅰの算定要件である常勤専従の機能訓練指導員として、病院、診療所、訪問看護ステーションとの連携による看護職員を1名以上あてることで加算はとれますか? |
A:とれません。機能訓練指導員とは理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・准看護師・柔道整復師・あんまマッサージ指圧師のいずれかの資格がある職員のことを指します。看護職員ということは良いのですが常勤専従でなければいけません。常勤専従とは提供時間内、終日配置するということです。 |
Q2:通所介護の個別機能訓練加算要件について、利用者の居宅を訪問し利用者の在宅生活の状況を確認した上で、計画を作成し機能訓練を実施するとありますが、利用者の中には自宅に人を入れることを極端に拒否する場合もあります。入れてもらえたとしても、玄関先のみであったり、集合住宅の共用部分のみであったりします。 このような場合に、個別機能訓練加算を取るためにはどうしたら良いですか? |
A:居宅を訪問する目的は、利用者の生活状況を確認し問題点を把握するためです。問題点を把握しないとより良い訓練に結びつきません。ご本人に問題を解決したい、在宅生活を長く続けたいという気持ちがあるなら趣旨をしっかりと説明し、必要性を理解していただきましょう。また、よく知らない人を自分の家に上げることは誰でも抵抗があります。日ごろからコミュニケーションを図り信頼関係を築きましょう。 |
Q3:利用契約はありませんが、利用見込みがある方についての質問です。利用契約前に居宅訪問を行い利用者の在宅生活の状況確認の後、利用契約に至った場合、個別機能訓練加算の算定要件を満たすことになりますか。 |
A:なります。契約前でも訪問しているので可です。 |
Q4:個別機能訓練加算Ⅰと個別機能訓練加算Ⅱを同時算定する場合、1回の居宅訪問でⅠとⅡの要件も満たすことになりますか。 |
A:両加算の目的と趣旨の違いを理解したうえで1回の居宅訪問で大丈夫です。別々に行く必要はありません。 |
Q6:居宅を訪問するのは、利用者宅へ送迎をした後そのまま職員が残り生活状況を 確認することでも算定されますか? |
A:家の中まで入れば可です。機能訓練指導員等なので介護職員でも大丈夫です。 |
Q6:個別機能訓練計画の作成及び居宅での生活状況の確認について、「その他の職種の 者」は、機能訓練指導員、看護職員、介護職員又は生活相談員以外に、どのような職種 ですか?また、個別機能訓練計画作成者と居宅の訪問者は同一人物でなく毎回変わってしまってもよいですか? |
A:機能訓練指導員以外が行っても差し支えありません。その事業所の職員であれば栄養士・調理士・運転士・看護助手・資格がない介護職員・派遣社員・事務員など。ただし加算の内容を理解した職員でないといけません。3か月に1回以上訪問する人は毎回違う職員でも可です。 |
Q7:利用者の居宅を訪問した上で、個別機能訓練計画の作成・見直しをすることが加 算の要件にあります。通所介護事業所における長期の宿泊サービスの利用者は、訪問 すべき居宅に利用者がないので居宅を訪問できません。このような場合は、加算を 算定できないのでしょうか? |
A:算定できません。利用者の居宅での生活課題を把握したうえで在宅生活の継続支援を 評価するためのものです。宿泊サービスは在宅生活ではないためです。 |
Q8:常勤専従の機能訓練指導員が人員基準上、必要な配置時間に居宅を訪問して良いですか? |
A:可です。常勤専従の機能訓練指導員は提供時間内の配置が必要ですが、居宅を訪問している時間も含めることができます。ただし、個別機能訓練プログラムに支障がない範囲内で行います。したがって、デイ終了後1番最後に送った際に訪問することが合理的に思います。 ちなみに、生活相談員は事業所以外にも地域生活を支えるための活動が認められているので堂々と勤務時間内に訪問しても差し支えありません。 |
まとめ
日本では日々高齢化が進んでおり、要介護度の悪化が懸念されています。国の財政も厳しくなり平成30年には要支援という枠組みがなくなり要支援者の通所サービス・訪問による生活支援サービスは地域支援事業へ移行していくことが考えられています。いかに悪化を予防し在宅生活を1日も長く維持することが重要になってきたといえるでしょう。
また、事業所も算定要件を満たした訓練をしているにも関わらず算定の申請・届出をしていなかったりする場合があります。せっかく加算が取れるのに、時間がないなどの理由でもったいないことになっています。
個別機能訓練はその利用者が在宅生活を問題なく続け、その人らしい人生が送れるよう支援を目的とした訓練です。
普段の訓練を機能訓練指導員に任せっきりにするのではなく、事業所の職員全員が積極的に制度を勉強し意見を出し合うことで、訓練の質も向上していくのではないかと思います。
今回の記事では、個別機能訓練加算を分かりやすく整理していますがあくまでも参考です。法改定などで変わることもありますので、関係機関に尋ねるなど情報収集されて下さい。
個別機能訓練加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。