事業所評価加算について、皆さんはどの程度熟知していますか?
算定要件を理解し、適切な時期に各都道府県に届出を出せているでしょうか。
今回は、事業所評価加算の意味や算定要件、手順、よくある質問などについて、いくつか紹介させて頂きます。
事業所評価加算とは
事業所評価加算を端的に説明すると、選択的サービス(※)を実施している介護事業所を評価するための加算です。
事業所がしっかりとしたサービスを提供できているかどうか確認し、サービスを利用されている方の身体機能が維持されていることや、サービス利用者が一定以上となったときに算定できます、詳しくは各都道府県ホームページに記載されておりますので、正しい文言については各都道府県ホームページをご確認ください。
※選択的サービスについては後述しております。
どのようなサービス業種に関係がある加算なのか
冒頭でも記述しましたが、この加算の対象となるサービス業種は「介護予防通所サービス事業所」となります。
「介護予防通所サービス事業所」とは、「介護予防通所介護事業所」と「介護予防通所リハビリテーション事業所」を指します。算定要件を満たしている事業所かつ、一定の条件を満たしていれば、加算の対象になります。
算定すると何単位取得できるのか
1ヶ月に120単位を加算することができます。
算定にあたる評価対象期間については下記を参照してください。
どのくらいの事業所が算定できているのか
事業所評価加算は平成18年度の介護報酬改定において、事業所の目標達成度に応じた介護報酬を設定するといった観点から設定されたものです。
算定開始から10年ほど経ち、徐々に加算を取得している事業所は増加してきましたが、平成20年度8月審査分の介護給付実態調査による算定実績では、下記のような算定割合となっています。
|
①加算対象事業所 |
②全事業所 |
事業所の割合(①÷②) |
介護予防通所介護 |
48事業所 |
6609事業所 |
0.7% |
介護予防通所リハ |
36事業所 |
3350事業所 |
1.1% |
合計 |
84事業所 |
9959事業所 |
0.8% |
介護予防通所介護の算定をとっている事業所は、全事業所、約6600事業所に対して、加算対象事業所はわずか48事業所で、その割合は0.7%でした。
さらに、介護予防通所リハビリテーション算定をとっている事業所は、3350事業所のうち、36事業所で、全体の1.1%であり、平均にして0.8%と低い割合に留まっていることがわかります。
どうすれば算定要件を満たせるのか
加算を取得している事業所が少ないですが、増えてきていることは確かです。具体的に算定要件を知り、ご自身の事業所では取得できる可能性があるのか、見ていきましょう。
算定要件
算定要件は以下となります。
- 定員利用・人員基準に適合しているものとして、都道府県知事に届け出て運動機能サービス、栄養改善サービス、口腔機能サービスを行っていること
- 利用実人員数が10名以上であること
- 利用実人員数のうち、60%以上に選択的サービスを実施していること
- 評価基準値が0.7以上であること
算定要件内の数式の解説
加算要件に含まれる評価基準値の計算については、下記の数式を利用します。
(要支援度の維持者数+改善者数×2)÷評価対象期間内に選択的サービスを3月以上利用後に更新・変更認定を受けた者の数」>0.7
数式を言葉にすると難しく感じますが、実際そんなことはありません。
例えば、A事業所の要支援者数が15名、(この15名が能力低下していないと仮定)当該期間中の4月初旬~7月下旬までの連続した期間、選択的サービスを使用したと仮定します。
この場合の計算式は以下のようになります。
(15 × 2)÷ 15 = 2 > 0.7
となりますので、この場合は、このA事業所は、翌年度からの事業所評価加算対象となります。
※実際には、利用者100%が維持・向上することはほぼあり得ません。なんらかの事業でサービスを途中で止めてしまうことや病気等が原因となり、能力が低下する可能性もあります。評価加算対象になっている事業所の多くは、0.7~1.5程度の数値となっています。
算定にあたる評価対象期間
評価対象となる期間は、各年1月1日~12月31日です。この期間内に、利用者の要支援状態の維持、改善の割合が一定以上になった場合が対象となります。
届出申請の手順のまとめ
申請手順の詳細
事業所評価加算を算定するためには、まずは然るべく申請を行う必要があります。条件が整っている事業所が事業所評価加算の算定を希望する場合には、各事業所が各年10月15日までに、各都道府県へ「介護給付費算定に係る体制等状況一覧表(※)」を用いて「事業所評価加算(申出)」の届出を行う必要があります。
※介護給付費算定に係る体制等状況一覧表…こちらについては、各都道府県のホームページ(健康福祉課など)を参考に、記述を進めてください。
各都道府県の庁が閉庁している場合、直近の前閉庁日が期限となりますので、安易に10月15日までに提出すればいいと考えていると加算が算定できないこともありますので、前もって準備、なるべく早く申請するようにしましょう。
届出を行った翌年度以降に再度算定を希望する場合には、その旨の提出する必要ありません。しかし、届出を行った翌年度以降に算定を希望しなくなった場合には、その旨の届出が必要となりますので注意してください。
各事業所の提出書類については、上記に挙げた「事業所評価加算(申出)になります。ひとまず都道府県に提出さえすれば、あとは都道府県、行政の評価待ちとなります。事業者の皆様は期限内に提出することをまずは心がけてください。
総合事業によって事業所評価加算はどう変わるのか
総合事業とは
総合事業とは、市区町村が中心となりそれぞれの地域の高齢者に適した『生活支援』『介護予防』を『総合』的に実施してゆく事業のことです。
総合事業の背景には、日本の他国には例を見ることができない超高齢化社会があります。2042年には65歳以上の高齢者が3900万人に上るといわれ、現在の医療介護システムでは十分なサービスを確保できないという、非常に緊急性の高い問題を抱えています。
そこで厚生労働省は2025年を目途に、高齢者が重度介護者になったとしてもその人の尊厳を大切に、人生を最後まで充実したものにするためのシステムを構築する必要があると発表しました。そこで構築案として提案されたのが、「地域包括ケアシステム」というものです。この地域包括ケアシステムの名のもと、その内の1つとして事業展開が始まっているものが、この「総合事業」となります。
総合事業は、2つに分類されます。
○介護予防・生活支援サービス事業
ここには訪問型サービスや通所型サービス、その他の生活支援サービスが含まれます。
○一般介護予防事業
これは一般の全ての高齢者が利用可能なサービスです。介護予防普及啓発事業(例えば、第1号被保険者に対しての体操教室など)や、地域リハビリテーションなどもこれに含まれます。
昨今では市役所の講堂などを利用し、「理学療法士による高血圧予防体操」「理学療法、作業療法を自分で」というような、リハビリテーション関連職種の講演会が開催されている地域も増えてきました。
総合事業の目的
つまり、総合事業をより簡潔に、よりわかりやすく言えば
「介護をなるべく必要としない体を作りたい」
「いつまでも元気でいられるようにしたい」
といったメッセージが含まれています。これらを体現化するために、今まで介護が必要だった人にしか受けられなかったサービスを徐々に一般高齢者に裾を広げて、幅広く高齢者をサポートしていきましょう、ということです。
住み慣れた地域の方々であれば、医療介護職員がその人のパーソナリティを理解し、よりその人に適した関わりができるでしょう。地域の支え合い作りを推進してその人がより元気に余生を過ごせるようにしたい、というのが表向きの理由です。
先述しましたが、2042年には65歳以上の高齢者が3900万人に上ります。このうち、高齢者の中の高齢化に伴い元気に活動することができる高齢者割合はますます低下することが予測されています。
さらに医療発展に伴い、平均寿命は延びていますので、どんどんサービス提供側の利用者1人に対する力が足りなくなってきます。こうなってしまうと、社会保障費の問題を蔑ろにすることはできません。
この地域包括ケアシステムの名のもと始まった「総合事業」には、“お金の問題”も理由として挙げられます。正直この事業、もしくはこれに変わる別の地域サポートシステムが機能しないと、日本はただの高齢国家に成り下がってしまいます。
お金の問題も裏にはありますが、後は、元気な高齢者にも他の高齢者の介護をできるような世界にしたいこと(介護労働力の確保)やサポートに伴う健康寿命の延伸、サービス購入に対する価値観の変革なども理由として挙げられます。
総合事業による事業所評価加算の取り扱い
結論ですが、総合事業の提供実績は事業所評価加算の対象になりません。
そもそも、事業所評価加算は予防給付を目的とした介護予防通所介護、介護予防通所リハビリテーション対象の加算ですので、一般介護予防事業を対象にした総合事業に関しては算定されないのは当然と言えるかもしれません。
しかし市によっては、介護予防通所介護の提供実績のみを評価、その基準値を満たしていれば翌年度から総合事業に対する事業所評価加算を算定することができるように施している市もあります。これについては現在、国と国保中央会との間で対応を検討中とのことです。今後の取り扱いとしても変更となる可能性があるので注意してください。
よくあるQ&A
選択的サービスって何?
選択的サービスの定義・意味
「介護予防を目的」とする要支援者が、本人の希望に応じて選択的に受けられるサービスのことを選択的サービスと言います。では、どのようなサービスがあるのでしょうか。
○運動機能向上
機能訓練指導員(主に理学療法士です)による、生活トレーニングを行います。
理学療法士とは国家資格を有し、身体障害者に対して、主に基本動作能力の改善を運動療法にてリハビリを行う人のことを指します。主に病院や施設で働いています。作業療法士は理学療法士とよく似た職種になりますが、一般的に応用的な生活動作の改善に向けてトレーニングを行う人のことを指します(着替えや、排泄など)。作業療法士も、理学療法士同様、国家資格が必要です。
○栄養改善
管理栄養士らが、栄養不足を予防するための食事作りや食材の購入方法などを指導します。
○口腔機能向上
歯科衛生士や言語聴覚士などが口腔内を清潔に保つような指導、施術者ブラッシングを行います。言語聴覚士とはこのような口腔機能向上だけでなく、発声練習や脳機能トレーニングなど、認知予防訓練も携わっています。
事業所評価加算に係るQ&A
事業所評価加算に関して、算定要件から申請方法まで全て厚生労働省のホームページにアップロードされており、質問についてもまとめられたものがあります。
こちらでは、その中でもよくある質問についてまとめておりますので参考にしてください。
※質問、回答については要約している部分がございますので、全文参照したい方はこちらをご参照ください。
Q1.翌年度の事業所評価加算の評価対象になるのは、いつの時期までに提供されたサービスか?
A1.事業所評価加算の対象となる期間は、各年1月1日から12月31日までとなります。
しかし、9月までに選択的サービスの提供を受け、10月末までに、更新・変更認定が行われた方が、翌年度の事業所評価加算の対象になります。国保連合会による処理の都合上、12月31日までに評価対象者を確定させる必要があるためです。
Q2.事業所評価加算の評価対象者について、選択的サービスを3ヶ月以上利用することが要件となっているが、連続して3ヶ月必要なのか?
また3ヶ月の間に、選択的サービスの種類の変更があった場合はどうなるか?
A2.選択的サービスの標準的なサービス提供期間は概ね3ヶ月です。そのため基本的に評価対象者については、選択的サービスを3ヶ月以上連続して受給する方を対象としています。
Q3.評価対象事業所の要件に「利用者実人員数が10名以上であること」とありますが、10名以上の方が連続する3ヶ月以上の選択的サービスを利用する必要があるのか?
A3.連続3か月使用でなくても可。延べ人数が10名以上であれば要件を満たします。
Q4.4月にA事業所、5月にB事業所、6月にC事業所から選択的サービスの提供があった場合は評価対象になるのか?合算してC事業所で加算が算定できるのか?
A5.対象になりません。ひとつの事業所からの選択的サービスの提供が必要です。合算はできません。
事業所評価加算の実情
今回は、「事業所評価加算」にスポットをあてて紹介いたしました。事業所評価加算は、その加算対象事業所独自の効果的なサービスを評価する観点からできた加算のひとつです。
できるだけ加算を算定したいところですが、実のところ、選択的サービスという文言はあるものの、実際に安定した人材供給が、この選択的サービスに対してなされているかというと疑問を感じざるを得ません。
それは、運動機能向上、口腔機能向上など、専門的な知識を持った理学療法、作業療法、言語療法士(リハビリテーション職種)の特別な職種が、まだ地域に浸透していないという現実があるからです。そのため、運動機能向上というサービスを行ったとしても、利用者側からすると「ただバイクを漕いだだけ」「棒で体操しただけ」など、実入りの少ないサービス提供に留まるケースも多いようです。
これらコメディカルの主な職域は、まだ急性期、回復期病院に留まっています。これからの職域拡大が選択的サービスをさらに充実化させていく必要要素となりえるでしょう。
将来的には、リハビリ難民と呼ばれる「リハビリをしたくても経済的余裕、人員不足で専門スタッフのいる非保険リハビリ施設に通えない人」が続出します。高齢者割合の増加とは反対に、リハビリを提供する側の人間が増えないので当然です。
そのため、選択的サービスを充実させていくためには、このようなスタッフの増員だけでなく、選択的サービスの根本的なシステムから変えていく必要もあります。
総合事業の開始に伴い、徐々にコメディカルの地域への浸透は始まってはいますが、まだまだ時間はかかると思われます。そのため、現行のサービス体系で、よりよい選択的サービスを提供するためには、その事業所の選択的サービスに対する在り方を熟考する必要があります。
昨今の介護業界では常に人材を募集しており、就職難から介護業界に逃げ込んできた人、仕事を追われ介護職しか仕事がなかった人、海外から来ている人など、非常に多様な方がいらっしゃると思います。
今後は上記のような方々が、介護予防の観点を持ったリハビリに興味を持つことが非常に重要になってきます。加算を算定することも非常に重要ですが、最も重要なことは利用者のための事業所であることであると思います。利用者のための事業所としてありながら事業所評価加算も算定できることが最も好ましいでしょう。
まとめ
事業所評価加算について、いかがでしたでしょうか。
算定されている事業所が少ないことは事実ですが、ただ加算額がもらえるだけが事業所評価加算のメリットではありません。解説しましたが、事業所評価加算を算定するためには、通常の事業所にはないサービスの提供環境を作ることが必要となります。
すなわちそれは、利用者のよりよいケアにつながります。
加算の中には、事業所をよりよくするための仕掛けとなっているものも多くあります。
よりよい事業所運営のためにも、加算について理解し、どの加算なら算定できそうか把握しましょう。
事業所評価加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。