住宅型有料老人ホームの運営基準をしっかりと把握して、健全で信頼される施設を運営したいと考えている介護事業者様は、ぜひこちらの記事を参考にしてください。
住宅型有料老人ホームとは
住宅型有料老人ホームとは、次のうち最低一つ以上のサービスが付いた高齢者向けの居住施設を指します。
- 食事の提供
- 介護(身体介護)
- 生活支援(家事や病w院への送迎など)
- 健康管理
介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームの違い
同じ有料老人ホームとして介護付き有料老人ホームがありますが、介護付きでは有料老人ホーム内で介護が提供されるのに対し、住宅型有料老人ホームでは介護が必要となったら外部のデイサービスや訪問介護サービスを利用することが可能です。
有料老人ホームの開業を検討しているが、事業所内で必要なサービスを揃えられないという場合は、住宅型有料老人ホームを検討することになるでしょう。
住宅型有料老人ホームの運営基準
有料老人ホームを運営するためには、まず設置者が各種法人や株式会社など、ある程度安定し続けられること、社会的信用が得られている経営主体であることが必要です。なぜなら有料老人ホームは、入居者が最期まで居住することも多く、長く安定した運営が必要になるからです。かなりご高齢の方が、経営がうまくいかなくなったとうい理由で追い出されてしまってはたまったものではありません。
具体的には、個人経営ではまず設置が難しいです。株式会社であっても少数の株主が出資している会社の場合は設置が認められない場合もあります。どの規模であれば可能かは自治体によって異なるため、開業を検討し始めた時点で一度確認を取るようにしましょう。
細かい運営基準は設置する自治体によって異なりますが、厚生労働省では次のように指針を示しています。開業先がまだ決まっていない、複数の都道府県での運営を考えているという場合には、こちらを参考にして検討してみるといいでしょう。
- 管理規定の制定
- 名簿の整備
- 帳簿の整備
- 個人情報の取り扱い
- 緊急時の対応
- 医療機関などとの連携
- 介護サービス事業所との関係
- 運営懇談会の設置など
1. 管理規定の制定
管理規定には主に次のような事柄が含まれている必要があります。
- 入居者の定員
- 利用料
- サービスの内容と利用者が負担するべき費用
- 介護を行う場合の基準
- 医療が必要になった場合の対応
「頼んでもいないサービスを勝手に実施された」「認識していた金額よりも料金が高かった」などというトラブルを防ぐためにも、明確に制定しておきましょう。
2. 名簿の整備
有料老人ホームの運営には、緊急時により早く、正確に状況に適した対応ができるようにするためにも、次の内容が記載された名簿の整備が欠かせません。
- 入居者の氏名と連絡先
- 身元引受人の氏名と連絡先
3. 帳簿の整備
帳簿は、次の内容を記載したものを最低2年間保存する必要があります。
- 有料老人ホームの修繕や改善の実施状況
- 前払い金、利用料、サービス使用料など入居者が負担した費用と受領の記録
- 入居者に提供したサービス内容の記録
- やむを得ず行った身体拘束の内容と時間、その理由
- 入居者やその家族からの苦情
- 入居者に提供したサービスによる事故の状況と対処の記録
- 他事業所に依頼した介護サービスの実施状況と提供する介護事業所の情報
- 設備、職員、会計、入居者の状況に関する記録
これらの帳簿が揃っていない場合、指定を受けられない、または指定が取り消されることもあるため、しっかりと準備しておきましょう。
4. 個人情報の取り扱い
名簿や帳簿など、個人情報が掲載されている資料や記録の取り扱いは、個人情報保護法に基づいて管理できる体制を整えておく必要があります。
5. 緊急時の対応
事故・災害・急病・負傷など入居者の命や健康にかかわる問題が起きたときのために、具体的な緊急時対応マニュアルを用意しておくことも重要です。火事を想定した避難訓練や、救命救急講習会などの定期的な開催も必要となります。
6. 医療機関などとの連携
有料老人ホームの健全な経営のためには、医療機関などとの連携をどうとっていくかもあらかじめ定めておく必要があります。
- 緊急時にどこの医療機関がどのような協力をしてくれるのか
- かかりつけ医との日頃からの情報交換
- 特定の医療機関への受診を強要、または誘導しないような取り組み
また普段から健康診断や健康相談が気軽に行える協力医療機関を設けておくことも大切です。
7. 介護サービス事業所との関係
住宅型有料老人ホームでは、介護サービスを外部に委託するケースも多いため、有料老人ホーム側が連携の取りやすさや付き合いなどで、サービスを限定してしまうことも少なくありません。
しかし健全な運営のためには、周辺の介護サービス事業所を広く情報提供したり、入居者自身がサービスを選択できたりするような環境作りが必要です。
8. 運営懇談会の設置など
有料老人ホームを運営するためには、管理者・職員・入居者によって構成される運営懇談会を設置し、下記の事項を定期的に報告する必要があります。
- 入居者の状況
- 提供しているサービスの状況
- 管理費・食費など入居者が運営に支払っている収支など
入居者が少なく懇談会の設置が難しい場合には、入居者への上記事項の説明などで代替することも可能ですので、各自治体に確認するようにしましょう。
運営基準を満たすうえでの注意事項
運営基準は設置する地域の基準に合わせる
前述した運営基準は、あくまで厚生労働省が示している指針であるため、自治体によってはもう少し詳しく規定されていることや、基準として定められていない項目があることが少なくないため、注意が必要です。他にも運営基準を満たすうえで、意識したいことについても見ていきましょう。
地域や利用者のための運営を一番の目標とする
各都道府県で定められている運営基準を満たすことも、もちろん大切です。しかし有料老人ホームは、地域の協力・利用者があってこそ存続していけるということをしっかりと意識しておきましょう。「あってよかった」と思われる施設を作っていけることが、一番理想的ですね。
役所と相談しながら運営基準を整えていく方法がおすすめ
何もかもしっかりと準備をした上で申請、という方法ももちろん間違っているというわけではないのですが、運営基準や設置基準の解釈に相違があると、その部分を修正しなければならず、手間がかかってしまいます。
帳簿程度の違いであればすぐに修正は可能ですが、建物の基準が異なると、再工事が必要となることもあります。大掛かりな修正の手間をかけなくていいよう、設置を検討した時点から、役所と相談しながら運営基準を整えて、開設に向けた準備を進めていく方法がおすすめです。
よくある運営基準違反
運営基準違反とは、文字通り各自治体で定められた住宅型有料老人ホームの運営基準からはずれて施設を運営すること、または運営しようとすることを言います。発覚タイミングは運営前が最も多いとされていますが、内部告発や定期的に実施される実地指導や監査などで発覚することも少なくありません。
運営前に発覚した場合は、住宅型有料老人ホームとしての指定が受けられず、基準を満たすまでは開設が認められなくなります。運営後の発覚の場合は行政から指導が入り、それでも基準を満たすことができなければ、指定の一時停止や取り消し、罰金などが科されることもあるため、注意が必要です。
それでは住宅型有料老人ホームで実際に起こりやすい運営基準違反について見ていきましょう。
特定のサービスの利用を強要・誘導する
介護サービスは基本的に、利用者の自由選択が尊重されるべきとされています。そのため、無理に自社や付き合いのある事業所の利用を強要・誘導したり、売り上げ貢献などのために特定のサービスの利用を強要・誘導したりすることは、運営基準違反となります。
利用料の一方的な値上げ
住宅型有料老人ホームの利用料として事前に管理規定によって制定された金額を、施設側が一方的に変更することはできません。例え不測の事態が起こってコストが大幅に上がった場合でも、利用料の変更は、原則として入居者や自治体の了承を得てから行う必要があります。
広告と実際のサービス内容が異なる
住宅型有料老人ホームでは、下記のうちどれか1つ以上のサービスの提供があれば、運営基準を満たします。
- 食事の提供
- 介護(身体介護)
- 生活支援(家事や病院への送迎など)
- 健康管理
運営基準上「食事の提供のみ」というサービスでの運営は可能なのですが、実際にサービス内容に含まれていないのにも関わらず、あたかも「介護」や「生活支援」などのサービスも実施しているかのような広告や宣伝をすることは、運営基準違反となります。
最後に
運営基準は、比較的難しい言葉で書かれていることが多いため、誤った解釈をしてしまうことも少なくありません。運営基準を適切に満たすことは、入居者様や地域の方々にとってより良い施設を作り上げることにも繋がりますので、積極的に行政に質問・相談しながら進めていくようにしましょう。
住宅型有料老人ホームは、これからますます必要となっていくからこそ、運営基準をおざなりにせず、信頼できる施設を増やしていきたいですね。
運営基準について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。