実地指導で不正の疑いがあり、監査で不正が発覚した場合は、行政処分を受けることになります。今回は過去の行政処分事例をご紹介します。
なお、この記事の主な対象事業は以下の通りです。
略称 | 正式サービス種別名 |
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訪問系 | 訪問介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・訪問入浴介護 |
通所系 | 通所介護・通所リハビリテーション |
入所系 | 短期入所生活介護・短期入所療養介護・特定施設入居者生活介護 |
居宅介護 | 居宅介護支援事業 |
その他 | 居宅介護療養介護指導・福祉用具貸与・特定福祉用具販売・住宅改修費支給 |
実地指導の基礎知識に関しては「介護の実地指導とは」にて解説しています。
返還金請求のみのケース
訪問介護事業所Aは、サービス提供体制加算を算定していました。特定の有資格者を配置するだけで算定できると思っていましたが、実際はそれに加えて定期的に研修を行う必要があり、研修は実施していませんでした。
この場合、加算を不正請求したとみなされ、返還金を請求されることになります。しかし確認の結果、事業所側の勘違いだとわかり、悪意がなかったために返還金の対応のみで済みました。
新規利用者の受け入れ停止になるケース
居宅介護支援事業所Bは、日頃からケアプランを作成せずサービス担当者会議も開催していないにも関わらず書類を偽造し介護保険請求を行っていました。関係者の情報提供によりこれらが発覚、監査が実施され、30万円を超える返還請求および6ヶ月間の新規利用者受け入れ停止と介護報酬の5割減算の処分を受けました。
明らかな不正である場合はこのような厳しい処分がくだされます。虚偽の報告や答弁をするなど悪質性が認められると、たとえ少額違反であっても厳しい処分を受けるケースもあります。また、一度このような処分をうけメディア等に掲載されてしまうと、悪いうわさが広まり、その後の新規利用者申し込みがなく、結果的に廃業してしまう事業所がほとんどです。
事業所指定取り消しになるケース
通所介護事業所Cでは、実際には利用者が来ていないにも関わらず、まるで来ていたかのように見せかけて書類を偽造し介護保険請求を不正に請求したり、実際の利用者の滞在時間よりも長い時間で請求していました。しかも長期的に不正が行われており、その額は数千万円にものぼっていました。数度の監査によって全容が明らかになり、不正請求した金額に加算金40%を加えた返還金請求に加え、事業所指定の取り消し処分となりました。
事業所指定取り消しは行政処分の中でも最も重いものだと言われています。指定を取り消されると、その日から介護保険が適用されず、事業は運営できなくなります。また、一度指定を取り消されているので再度指定を受ける必要がありますが、ほとんどの自治体では5年から10年ほど経過しないと新たな指定申請を受けられないようにするなど、非常に厳しい規定が定められています。
行政処分の具体事例
ここで東京都と大阪府のウェブサイトを確認します。指定取消しや、サービス停止の処分を受けてしまった事業者が公開されています。最近の公開情報からその事由と処分をピックアップしてみました。不正受給額としては20万円程度となっていますが、処分は半年などに及ぶ重いものとなっています。しかも、事業者が公表されてしまい、ケアマネからの新規の紹介が減ってしまうでしょう。もちろん、これらよりも金額が高額だったり組織的な不正があった場合には、一発で免許取消になるケースもあります。
東京都の事例1
◆サービス種別
訪問介護
◆不正の内容
- 不正請求
訪問介護員としての資格のない者が指定訪問介護サービスを提供したにもかかわらず、資格のある者がサービスを提供していたとして、サービス実施記録等を作成の上、介護報酬を不正に請求し、受領した(2ヶ月間で53回)
- 虚偽の答弁
訪問介護員としての資格のない者が指定訪問介護サービスを提供していたにもかかわらず、資格のある者が指定訪問介護サービスを提供していたとする虚偽の答弁を、行い検査を妨げた。
- 不正受領額
24万円
◆処分
6ヶ月間の新規利用者の受入れ停止
東京都の事例2
◆サービス種別
通所介護
◆不正の内容
- 不正請求
利用者2名がサービス提供時間帯を通じて通所介護サービスを受けていなかった日延べ68日について、また、利用者1名が通所していなかった日延べ5日について架空のサービス提供記録を作成の上、介護報酬を不正に請求し、受領していた。
- 不正受領額
26万円
◆処分
指定の全部の効力の停止(3ヶ月間)
大阪の事例1
◆サービス種別
訪問看護
◆不正の内容
- 人員基準違反
厚生労働省令で定める訪問看護員等の員数(常勤換算方法で2.5人以上)を確保していなかった。
- 虚偽の報告
大阪府へ提出する書面監査の看護師等の員数を、基準を満たしているように見せかけるために虚偽の報告を行なっていた。
◆処分
指定の全部の効力の停止(3ヶ月間)
事業所の利益を優先した結果、次第に慣れていってしまう場合があるのかもしれません。そして、実施指導の際に事業主が「現場で起こっていて、知らない、わからない」と答弁するケースもあるようです。事業所の代表者は法令を遵守した運営をする義務があります。しっかりとマネジメントをしていきましょう。
実地指導について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。