介護事業所の実地指導は以下のように、半日~1日にかけて行われます。
今回は、実地指導のヒアリング項目について、スケジュールに沿って解説します。
[実地指導 当日の標準的なスケジュール(介護保険施設等実地指導マニュアルを基に作成)]
なお、この記事の主な対象事業は以下の通りです。
略称 | 正式サービス種別名 |
---|---|
訪問系 | 訪問介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・訪問入浴介護 |
通所系 | 通所介護・通所リハビリテーション |
入所系 | 短期入所生活介護・短期入所療養介護・特定施設入居者生活介護 |
居宅介護 | 居宅介護支援事業 |
その他 | 居宅介護療養介護指導・福祉用具貸与・特定福祉用具販売・住宅改修費支給 |
実地指導の基本的な知識に関しては「介護の実地指導とは」にて解説しています。
基本的なチェックポイント
まず、実地指導全体に通ずるチェックポイントについてです。
こちらは「実地指導対策マニュアル」にて詳しく解説しています。
運営指導のチェックポイント
生活実態に関するヒアリング項目
指導担当官のチェックポイントとして、運営指導1(利用者の生活実態の確認)と2(サービスの質に関する確認)に分かれています。まず事業所内のチェックから始まり、運動指導1の生活実態の確認から行われることが多いようです。介護保険施設等実地指導マニュアルから、主なヒアリング内容を抜粋します。
- 日中はどのように過ごされていますか?
- 利用者が興味をもたれているものは何かありますか?
- 利用者の望むことを聞かずに、椅子や車いすに座らせたままにしていませんか?
- 個々の利用者の排せつパターンやサインを把握していますか?
- 入浴等の介護拒否があった場合は、どのように対応されていますか?
- 最近、ヒヤリハットしたことはありますか?
- 夜間、眠れない方はいますか?
- (いる場合は)どのような理由で眠れないと思いますか?
- 利用者が外出を希望した場合はどのように対応されていますか?
- 食事の時間・内容についてはどのように決めていますか?
- 起床時の利用者へのケアはどのように行っていますか?
- 毎日利用者が着用する服はどのように選んでますか?
- (利用者の好みですか?施設側で判断していますか?)
- 利用者がかゆみ等を訴えた場合どのように対応していますか?
- 利用者のそりが合わない又は攻撃的になったりすることのある利用者に対しては、それぞれ対人関係においてどのような工夫をしていますか?
- 見当識障害(時、場、人)が著しい利用者について、どのような工夫をされていますか? (なじみの空間づくりの工夫等)
利用者と家族の意見を聞き、本人の意志を尊重していることを問う設問が多くなっています。また個別の利用者さんの身体の状況をよく把握して、しっかりと生活をサポートができているかが問われます。これらは介護事業者としては基本的なことですが、利用者さんの記録が残っていない、対応がマニュアル化(書面化)されていないと、指摘されることもあるでしょう。なるべく書面や電子機器にて、利用者さんの状況を記録から説明できる体制を作ることが望まれます。
ケアマネジメントプロセスへの理解の確認
続いて運営指導2(サービスの質に関する確認)のチェックが始まります。ここではケアマネジメントプロセスの理解が一番の目的として行われます。流れの中で、虐待や身体拘束に対する理解と取り組み、認知症ケアへの理解、地域との連携などが確認されていきます。
[図表:ケアマネジメントプロセスの例]
以下に、介護保険施設等実地指導マニュアルをもとに各項目について確認されるであろう内容をピックアップします。繰り返しになりますが、実地指導は介護サービスの質の向上を図ることが目的です。”問題がなかった”という報告では何かを隠していると思われることもあるでしょう。施設を運営していれば必ず問題点が生じてきます。まず、しっかりと問題を認識できるかどうか、そして問題に対応する体制(組織化)が整っているか問われます。
- 情報収集(アセスメント)
○利用者や家族等の情報収集の方法は、具体的にどのように行っているのか。
○利用者にとって必要な情報を引き出すため、アセスメントにおいて特に、留意していることはなにか。
○ 生活感、価値観、人生観などを含めた全体像のアセスメントを行い、その人らしさを掴んでいるか。
- 課題分析(アセスメント)
○ 利用者の状態を改善するための課題やニーズの把握について、アセスメントから得られた情報の分析をどのように行っているか。
○ 利用者の状態の悪化の防止又は悪化のスピードを遅らせるためにどのような対応をしているか。
- ケアプラン作成への参加
○ 課題に応じて多職種が関わりを持つケアプランとなっているか。(役割分担を意識しているか)
○ ケアプランの目標を設定する際には、どのような配慮をしているのか。
○ 短期・長期目標を設定する場合、特に留意していることは何か。
○ 危険な状態になった場合の処置方法を事前に行っているか。
- サービス担当者会議(ケアカンファレンス)
○ ケアカンファレンスの開催頻度・出席者の名簿と内容の確認。
○ 高齢者虐待や身体拘束のリスクを家族に説明しているか。
- モニタリング
モニタリングを具体的に、どのように行っているのか。
- ケアプランの変更
○ 利用者の状態変化をどのように捉え、次の課題につながる再アセスメントをどのように行っているのか。
○ 一連のケアマネジメントプロセスの中で、ケアを担うチームの意見等をどのように集約していますか。
高齢者への虐待
ニュースでは連日のように介護施設の虐待が報道されています。利用者とその家族は、施設の虐待に関して非常にナイーブになっています。利用者家族が施設に直接聞けない場合は、行政の窓口に虐待が相談されるケースもあるようです。行政としては身体拘束や虐待に対する予防の体制を、どれだけ施設運営者に理解してもらえるかに焦点を絞っています。
虐待や身体拘束に関して問われることは、まず「その行為が虐待や身体拘束であるという認識があるか」です。
[図表:高齢者虐待の例]
[図表5:身体拘束の定義]
どうしても、やむなく身体拘束を行う場合には、三つの要件をすべて満たすことが必要となります。そしてその記録は2年間保存しなければなりません。
<3つの要件>
- 切迫性…利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
- 非代替性…身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
- 一時性…身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
これらの理解が事業主だけでなく、現場の職員にもしっかりといきわたっているのかが確認されていきます。身体拘束に対する取り組みが甘く、廃止未実施としての認識をされば場合には、「身体拘束廃止未実施減算」が適用になります。身体拘束廃止未実施減算として、1日につき5単位を所定単位数から減算されます。ここは時代に即した、非常に重要なポイントです。しっかりと取り組みを行い、利用者からも行政からも基本的な信用を得ていきましょう。
地域との連携
地域との連携については、特に地域密着型サービスを行っている事業者は運営推進会議に対して、サービス内容などを報告しているかが問われます。また施設が地域に開かれたものとして運営されるように、地域との交流がどの程度行われているのか確認があるでしょう。
報酬請求指導のチェックポイント
次に後半の報酬請求指導についてです。
報酬請求指導の主な内容
- 加算及び減算に係る考え方…加算等の請求に当たっての基本的な考え方を確認する。
- 加算及び減算の実施状況…加算等の請求の種類等の状況を確認する。
- 加算及び減算の請求の内容…各種加算等の請求を行っているものについて、関係書類等により施設・事業所側から説明を受ける。
- 効果…加算を実施したことによる効果について説明を受ける。
主には加算・減算に関する考え方、実施方法などがヒアリングされ・指導箇所があった場合には行政側からの説明を受けることになります。
では、具体的なヒアリング内容はどのようなものになるのでしょうか。介護保険施設等実地指導マニュアルから事例として提示されている内容を抜粋します。
報酬請求指導に関するヒアリング項目
- 個別機能訓練開始時の利用者への説明の有無
(指導担当者):個別機能訓練開始時、利用者本人に説明は行っていますか?
(施 設 側) :説明しています。
(指導担当者):説明していることが確認できるものは何かありますか?
(施 設 側) :説明していますが、記録はしていません。
(指導担当者):加算請求は、説明するにあたって記録が求められます。
- 利用者に対する計画の内容説明、記録
(指導担当者):3ヶ月毎の利用者への説明は行っていますか?
(施 設 側) :最初の一度だけカンファレンスをして説明しましたが、3ヶ月に1回という間隔で説明は行っていません。
(指導担当者):説明そのものが目的ではなく、状態の変化に対応して計画の変更をしていないと、よりよいケアに結びつかないことから、このように最低3ヶ月毎に利用者への説明をお願いしているのです。
- 専ら職務に従事する常勤の理学療法士等を1人以上配置
(指導担当者):常勤の理学療法士等を1人以上配置することになっていますが、職員配置上どのようになっていますか?
(施 設 側) :作業療法士を1名配置しています。
(指導担当者):資格を確認できるものは何かありますか?辞令等の発令は?また、勤務状況がわかるものはありますか。
(施 設 側) :・・・
(指導担当者):「勤務しています」と言うだけでは、確認が出来ません。例えばタイムカード等の確認を施設長等がチェックする体制を整備しておくなど、確認書類は特に問いませんが、毎月配置ができていることを確認する必要があります。もし、常勤としての日数が欠落していた場合、翌月は加算を請求することができません。
- 訓練の効果、実施方法等に対する評価
(指導担当者):個別機能訓練計画書はどのように作成されていますか?
(施 設 側) :(個別機能訓練計画書を見ながら)利用者の状態、目標設定、訓練内容・・・等で作成しています。
(指導担当者):多職種協働ということですが、どのような役割分担になっていますか?
(施 設 側) :介護職員は作成したプランに沿って介護を行い、看護職員は・・・。
(指導担当者):その実施状況を確認できるものは何かありますか?
(施 設 側) :関係職員には計画書を渡してあり、各自それに沿って実施していますが、記録はしておりません。
(指導担当者):その職種の方が何をどう計画書に従って実施したか確認できなければ加算は請求することができません。記録が目的ではなく、各職種での実施状況の情報共有ができていないと計画が適切に実施されているか不明ですし、家族や利用者に対しても説明できないと加算を届け出た価値が見いだせないと思います。
- 個別機能訓練に関する記録の保管、閲覧への対応
(指導担当者):個別機能訓練に関する記録の保管、閲覧はどうされています?
(施 設 側) :記録しているのみで、閲覧は行っていません。
(指導担当者):閲覧ができるようにしておくことが重要です。記録し、閲覧できるようにすることで利用者、家族、多職種と情報の共有を図ることが可能になり、よりよいケアへ結びつきます。
まとめ
いかがでしょうか。日々の運営に慣れてしまうと、自己判断で記録を省いてしまったりすることがあります。しかし記録がないと、意図していなくても誤解を招く原因になります。気をつけたいのは、加算請求を取り消されてしまうケースです。第三者がそれを確認できるようにしっかりと記録をつけておくことが大切です。
平成27年度3月の介護報酬改定では、事業者のマネジメント能力を問う加算が増えました。地域包括ケアシステムを円滑に運営するためにも、他職種連携をしっかりと行うためにも、事業所のマネジメントスキルの向上が求められているのです。今後の改定でも、管理能力のある人間が事業所にきちんと存在しているかを問う内容が増えるでしょう。
事業経営者自らがマネジメントスキルを身に着けることはもちろんですが、サービス提供責任者などのスタッフにも研修を行って、これを機に、事業所全体として管理体制を強化する流れを作ってしまいましょう。
実地指導について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。