日本はこれから超高齢社会がますます進みます。
その勢いは今までに誰も経験したことがないもので、介護を必要とする高齢者の数も増え続けるために、介護サービスの充実が求められています。
政府の方針としては、老人ホームなどの施設を多く作るよりも、地域で高齢者がいきいきと暮らしていける「地域包括ケアシステム」を重視しており、地域で事業を展開する様々な団体がこれを支えていくことになります。
特に、これから需要がますます伸びていくと考えられているのが、介護のみではなく医療面のケアが必要な方の自宅に伺って、看護サービスを提供する訪問看護事業です。
事業に参入して開業する方も増えてくると予測されますが、訪問看護事業には介護保険制度や医療保険制度との関連など、ほかの事業にはない開業にあたっての難しさがあると言えます。
では、実際に訪問看護事業を開業するにはどのような知識が必要なのでしょうか。
訪問看護事業の開業を考えていて、手順や必要な資金などを知りたい方はぜひこの記事を参考にしてください。
訪問看護を開業する際の手順
訪問看護事業を開業するにあたっては、主に3つの手順をクリアする必要があります。
まず1つ目は、介護保険法の指定事業者となるための最低条件である法人の設立をすること。
2つ目は実際に開業するための資金を集めること。
3つ目は指定を受けるための基準を満たし、訪問看護の事業者として地方自治体からの指定を受けること。
ここまでの準備が整って、やっと最後のステップの開業にこぎつけることができます。
では、具体的にそれぞれのステップではどのような作業や注意点があるのでしょうか。1つずつ見ていきましょう。
法人の設立
訪問看護の事業者として指定を受けるためには、個人の事業者ではなく法人格を持っている必要があります。
ここでいう法人格には株式会社、合同会社、NPO法人など様々なものが含まれますが、訪問看護事業を行うにあたっては一般的に株式会社か合同会社の形で法人格を取得する場合が多いと言えます。
法人の設立にあたっては、煩雑かつ専門的な事務作業が必要になることと、設立後に相談できる体制を整える観点からも、税理士などに依頼することが無難でしょう。
税理士に法人設立の作業を依頼した場合の相場は、20万円~30万円程度です。
融資を受けるために
開業にあたって必要になる資金については後半で詳しく説明しますが、指定を受けるための人員基準や設備基準を満たすだけでも、かなりの額の開業資金が必要になります。
例外的に、貯金が多くあり資金面の不安が無い場合には別ですが、一般的には金融機関などから融資を受けることになります。
この際、地域の金融機関などとのつながりを生かせる場合にはスムーズに進むことが多いですが、そういった関わりが無い場合には、政府が運営する日本政策金融公庫などからの融資を考えることをおすすめします。
指定を受けるために
法人を設立し資金の確保ができたら、いよいよ訪問看護の事業者として指定を受けるための準備に入っていきます。
事業者としての指定を受けなければ、訪問看護事業を運営していくことはできませんのでここが一番肝心になります。
指定のための準備として必要なものは主に二つ。人員の基準を満たすために人を採用することと、事務室などの設備を整えることです。
採用活動
訪問看護事業を運営するためには、常勤換算方法で2.5人の看護師や保健師が在籍している必要があります。
経営者を合わせて実質3人以上は必要ということです。 採用活動をするにあたっては、かけられる費用によって方法が変わってきます。
潤沢に予算がある場合には、自分たちが運営する訪問看護事業に必要なスキルを伝えて、人材紹介会社に優秀な人材を紹介してもらう方法があります。
予算が無い場合には、今までのツテやハローワークを使って人材を募集することになります。
設備を整える
訪問看護事業の運営にあたっては、事務室など様々な指定された設備を持っていることが指定の条件になります。
この指定のための設備の条件は、地方自治体によって異なっているものですから、実際に指定を受けるための準備に入る前に条件について詳細に知っておく必要があります。
損害賠償保険への加入
訪問看護事業者としての申請を受けるためには、損害賠償保険の証書等の写しを地方自治体に提示する必要があります。
これは、看護の現場では不測の事態や、損害賠償を請求される事態のすべては防ぎようがないため、事業者側、また事業者を指定する行政側双方にとって必要なことなのです。
指定申請の手順
実際の指定の手順について東京都を例に説明します。
実際に指定申請をする前に任意で相談することもできますので、不安がある場合にはまず行政の担当者に相談してみてください。
- 指定申請書を作成し所属する地方自治体に提出
- 指定前研修の受講
- 地方自治体の指示のもと、必要な書類を作成し提出
- 一定の審査期間、審査が行われ、審査基準を満たしていると認められれば指定される
指定申請書の提出のタイミングやその後の手順などは地方自治体によって異なるので、必ず確認した上で慎重に進めるようにしてください。
訪問看護の指定基準とは?
ここまで、訪問看護の事業者として指定を受けるための手順について説明してきましたが、具体的に訪問看護の指定基準はどのようなものになっているのでしょうか。
主に人員基準、設備基準、運営基準の3つがありますので、1つずつ確認していきます。
人員基準
訪問看護事業における人員基準は看護職員(保健師・看護師・准看護師)が常勤換算で2.5人以上いることです。
常勤換算というのがわかりにくいですが、以下の計算式で求めることができます。この計算式に当てはめて、2.5人以上いる必要があります。
常勤の人数+(非常勤職員の勤務時間合計÷常勤が勤務するべき勤務時間)
設備基準
設備基準について細かい指示はなく、事務室と看護をするために必要な設備、といった程度の曖昧な指示になっています。
これは、地方自治体によっては詳しく指示される可能性もありますので事前に確認する必要があります。一般的には以下のような設備があると良いでしょう。
- 受付
- 相談スペース
- スタッフが作業をする部屋(PCなども用意)
- 更衣室
- 看護に使用する医療機器の管理部屋
- カルテなどの重要資料の保管場所
運営基準
事業所の運営基準としては、以下のようなものが定められています。
- 訪問看護計画書に基づき、医師の指示のもとでサービスを提供していること
- サービス内容などが記された計画書が作成されていること
- 居家族に対するサービス提供をしないこと
- ご利用者の病状が急変した時の緊急体制(主治医への連絡など)が取れていること。
訪問看護の開業に必要な資金
訪問看護の開業のために必要な資金はおおよそ800万円~1000万円程度だとされています。
ここで、注目したいのがこの費用のうちの7割~8割は人件費として必要になるということです。
訪問看護事業はデイサービスや老人ホームなど、ほかの業態に比べて設備にかかる開業費用が少ないですが、看護職員を雇う必要があるために人件費は比較的高めになります。
また、保険による報酬は申請してから2ヵ月後に振り込まれるため、それまでの職員の人件費を見越した開業資金を考える必要があります。
資金の調達方法
資金の調達のためには、主に2つの方法が考えられます。
まずは、銀行や信用金庫などから融資を受ける方法です。
これは、前職で付き合いのある銀行や信用金庫がある場合などに有効です。
銀行や信用金庫からの資金調達が難しい場合に利用したいのが日本政策金融公庫です。
政府が運営している公庫のため、適切な事業であれば融資が受けやすく、また「女性起業家支援資金」などメリットのある融資プランも用意されているため、利用を検討してみると良いでしょう。
銀行や信用金庫から調達する場合も、日本政策金融金庫から調達する場合でも、実態に即した事業計画書と収支計画書に基づき丁寧な説明をすることが大切です。
訪問看護事業を開業する際の注意点
保険制度の理解
介護保険制度においては申請から報酬の振り込みまでは2ヵ月のタイムラグがありますので、これを考慮に入れて開業計画を立てる必要があります。
計画的な書類作成
多くの書類を作成し提出する必要がありますので、やることリストを作成してもれなく作業を進めていく必要があります。
収支計画
実際に開業した後にどの程度の収益が見込めるのか、継続した運営が可能なのかという点を冷静に見極めてから開業することが必要です。
まとめ
ここまで、訪問看護事業の開業のために必要な知識や手順などについて説明してきました。
事業者としての指定を受けるためには、法人の設立から人員の確保、設備の充実と、取り組まなければならないことが多いですが、1つずつ整理して作業すれば難しいものではありませんので、落ち着いてゆとりをもって計画を進めてください。
書類の提出や行政とのやり取りなどを計画的に終えて、利用しやすい訪問看護事業を展開していく事業者が増えることが望まれます。
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