介護事業所のサービス提供責任者のみなさん、いつ実地指導が行われてもいい準備はできているでしょうか。
実地指導は通達から実施まで、だいたい2週間~1ヶ月が一般的です。
この期間の短さでは実地指導について知識がなければ、提出書類の準備や事業所の外見は準備することができても、根本的な改善は見込めないでしょう。また、
そんな中、実地指導に関して、最も参考になる文献は介護保険施設等実地指導マニュアル(改訂版)といえます。
これは、厚生労働省によって製作されており、元々は都道府県の実地指導監督担当職員のためにつくられました。
しかし、見ればわかるように膨大なページ数となっており、読み切るだけでも非常に困難です。
そこで、今回は実地指導マニュアルの概略について解説します。
なにが目的なのか、どのような指導の種類があるのかを理解し、実地指導当日を堂々と迎えられるようになりましょう。
実地指導マニュアルとは
実地指導マニュアルとは、実地指導に関する基本的な知識や、サービスの質の確保・向上につながる指導方法等をまとめたものです。元々は、指導監督担当職員がどのような方法で指導を実施したらよいか示すものでしたが、後に、事業所の業務遂行の手助けとなることを意図し、発行されることとなりました。
平成22年度には、指導方法に関してバラつきや格差があること、地域密着型サービスの指導に適用できないことが指摘され、改定がされています。改定前は、平成17年度の法改正を受け、高齢者の尊厳の保持、高齢者虐待の防止等に焦点が当てられていましたが、加えて、グループホームや小規模多機能型居宅介護等の指導に関して、認知症ケアに必要な共同生活の重要性、地域連携への積極的取組に重点が置かれています。
実地指導マニュアルの目的
マニュアル改定の際には、地域密着型サービスに関する是正等に焦点が当たりましたが、実地指導マニュアルの本来の目的は、「介護サービスに求められるケアの質の向上」です。高齢者の尊厳を支えるケアの確立のために、行政と施設・事業所が一体となって高齢者介護のあるべき姿の実現を目指します。
この課題のために、施設・事業所においては、
- 認知症を含む基本的なケアの知識
- 利用者本人等の状況を十分にアセスメント(利用者の機能状態などの把握)
- 利用者本位のケアプランの作成
- 職員一人一人が専門家としてアプローチすることの重要性
- チームとして個別ケアに取り組む姿勢や体制づくり
- 一連のケアマネジメントプロセスの理解と実行
- 施設・事業所が一体となって取り組める体制づくり
が求められています。
一方、行政においては、
よりよいケアの実現に向けた高齢者虐待防止、身体拘束禁止等の観点に重点をおいた運営指導が求められています。
現場においては、介護サービスに求められるケアの向上のために、利用者と職員の意識の差を縮めることが必要とされていますが、施設・事業所の力だけでは限界があります。そこで、監督権限を持つ行政が施設・事業所の取り組みを支援する形で標準的なプロセス指導を行うことが重要と考えられます。その際の、行政と施設・事業所のイメージをできるだけ統一させるために実地指導マニュアルが存在します。
そして、実地指導が運営指導と報酬請求指導に分かれるように、指導マニュアルも運営指導マニュアルと報酬請求指導マニュアルに分かれます。
運営指導マニュアル
運営指導マニュアルの目的
運営指導の目的は、高齢者虐待の防止や身体拘束の禁止を徹底です。
そのため、虐待や身体拘束と判断される行為及びそれらが与える影響についての理解、防止のための取り組みの促進についての指導が行われます。
さらに、高齢者の尊厳ある生活の実現に向けたサービスの質の確保・向上のために、ケアマネジメントプロセスの重要性や生活支援のためのアセスメントの適正化、個別ケアの推進が指導されます。
※ケアマネジメントプロセス…アセスメントからケアプラン作製までの一連の流れ
※アセスメント…利用者やその家族に対し情報収集、課題分析をすること
運営指導マニュアルの指導方法
運営指導の方法は、運営指導1と運営指導2に分かれています。
運営指導1
運営指導1では、利用者の生活実態に関する確認が行われます。
具体的には、
- 施設・事業所内を確認し、利用者の生活実態を確認
- 行動・心理状態のある利用者の生活実態の把握
- マニュアルを通し、虐待や身体拘束が疑われる利用者の把握
以上3点を重点的に確認します。
運営指導2
2ではサービスの質に関する確認が行われます。
具体的には、運営指導1で確認したことを中心に以下の項目についてヒアリングを実施されます。
- 認知症ケアの理解
- 虐待防止・身体拘束廃止
- 虐待防止・身体拘束廃止への取り組み
- 虐待・身体拘束についての認識とサービスの実施状況
- 高齢者虐待防止・身体拘束禁止に関する制度の理解
- 一連のケアマネジメントプロセスの理解
- 地域との連携
以上が運営指導の実施方法となります。
報酬請求指導マニュアル
報酬請求指導の目的
一方、報酬請求指導マニュアルの目的は、不正請求の防止と制度管理の適正化です。
そのために、介護保険給付の事務処理の適正化、基準要件を満たした加算に基づくサービスの適正化を実施します。
万が一、報酬基準に適合しない場合、加算算定要件の説明の実施、適切なサービスへの誘導、過去の請求に対する点検・過誤調整が行われます。
※過誤調整…誤って申請した請求明細書を取り下げ、必要に応じ正しい請求明細書を再提出、正しい請求額との差額を通常請求する請求明細書の支払確定額から差し引くこと。
報酬請求指導の指導方法
ヒアリングを通じ、届け出ている加算等に対して基本的な考え方や算定要件に基づいた運営・請求ができているか確認します。
以下はその一例です。
- 報酬基準に基づいた実施体制が確保されているか
- 一連のケアマネジメントプロセスに基づきサービスが提供できているか
- 多職種との協働によるサービス提供が実施されているか
まとめ
ここまで、実地指導マニュアルの概略に関して解説してきました。
今回、記載したことはもちろん重要事項ですが、マニュアルの中にはまだ知らなければならないことが山ほどあります。
ご自身で全て理解することは、困難とは思いますが、今回の記事を通して、興味を抱いた箇所、理解できなかった箇所、特に事業所に足りていないと感じた箇所に関しては、積極的に介護保険施設等実地指導マニュアル(改訂版)をご覧になることをおすすめします。
実地指導について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。