介護支援ブログ

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個別機能訓練加算Ⅱとは?算定に必要な情報を分かりやすく解説

介護サービスを提供する事業者にとって、加算を取得することは、経営を安定させ、良い人材を雇用するためにとても大切なことです。

個別機能訓練加算Ⅱの算定を新規に検討されている、もしくは引き続き算定基準を満たしているのか確かめたい介護事業者の皆様のために、必要な情報をわかりやすく解説します。

個別機能訓練加算を取得し、より安定した経営を実現したい事業者の方は、ぜひこの記事をご覧ください。

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個別機能訓練加算Ⅱとは

個別機能訓練の概要

個別機能訓練加算Ⅱについて簡単に説明します。

デイサービスやデイケアといった通所系サービスにおいて、サービス提供時間中に、利用者に個別または5人以下の小グループで機能訓練を実施した場合につく加算です。

加算の申請にあたっては、人員基準を満たすほかに、居宅訪問、個別機能訓練計画書の作成、モニタリングなどの算定要件をクリアすることが必要になります。

平成27年度の改正内容

平成27年度の介護保険法の改正に伴い、個別機能訓練加算の単位数も変更されました。

多くの項目で単位数が減らされた中、個別機能訓練加算については、ⅠとⅡのいずれも増額されています。

機能訓練加算Ⅱについては、50単位から56単位に増えています。

また、アセスメントやモニタリング時において、居宅訪問をすることが義務付けられました

個別機能訓練の基本的な考え方は、自分が生活してきた家で、可能な限り自立して生活していけるようにするための訓練であるということです。

そのためには本人が現在住んでいる家屋を訪問し、利用者本人やご家族のニーズに加えて、自宅における環境面で何が障害になっているのかをチェックします。

そこで得た様々な情報やニーズ、住環境などを総合して判断し、個別機能訓練計画書を作成していきます。

個別機能訓練加算Ⅰ、Ⅱの関係性

個別機能訓練加算には、個別機能訓練加算(Ⅰ)個別機能訓練加算(Ⅱ)があり、それぞれ目的、算定条件、加算の単位は異なっています。

目的が異なるので、それに合わせて算定要件が定められていると言えます。

 

個別機能訓練加算(Ⅰ)は、厚生労働省のサイトで以下のように説明されています。

個別機能訓練加算()は、常勤専従の機能訓練指導員を配置し、利用者の自立の支 援と日常生活の充実に資するよう複数メニューから選択できるプログラムの実施が求 められ、座る・立つ・歩く等ができるようになるといった身体機能の向上を目指すことを中心に行われるものである。

出典:厚生省

ADL(Activities of Daily Living=日常生活動作)、つまり、立ち上がる、歩くといった移動に関する動作の他に、スプーンを持つ、噛む、飲み込むといった食事に関する動作など、毎日の生活で必ず必要になる一つ一つの動作ができるようになるための訓練にあたります。

個別機能訓練を実施してもらうのは、もちろん利用者にとってもメリットのあることです。

しかし逆に言えば、これらADLの基本的な行動ができないとなると、訪問介護や訪問看護といった更なるサービスの利用や、いずれは施設への入所を検討したりすることに繋がっていきます。

そうなると介護保険からの支出が増大するので、国としては個別機能訓練加算を付けてADLを維持してもらった方が財政的にもいいわけです。

それゆえに平成27年度の改正により、1日当たりの加算額が42単位から46単位に増やされました。

増額分は4単位ですが、個別機能訓練加算Ⅱの増額分は6単位です。

人員基準においてはⅠでは「常勤・専従」の機能訓練指導員を配置する必要があるので、「専従」と指定されているⅡよりも厳しいともいえるのですが、ⅠよりⅡが重視されているとみることができます。

 

個別機能訓練加算(Ⅱ)では、

身体機能 の向上を目的として実施するのではなく

体の働きや精神の働きである「心身機 能」

ADL・家事・職業能力や屋外歩行といった生活行為全般である「活動」

 ③家庭や社会生活で役割を果たすことである「参加」

といった生活機能の維持・向 上を図るために、機能訓練指導員が訓練を利用者に対して直接実施するものである。

出典:厚生省

つまり個別機能訓練(Ⅱ)は、ADLより複雑な動作が組み合わさった、高次の生活機能を評価するIADL(Instrumental Activities of Daily Living=手段的日常生活動作)を維持すること、または新たにできるようになることを目的としています。

ADLの目標が「玄関まで歩く」なら、IADLの目標は「近所の店まで買い物に行く」といったところでしょうか。

目標はシンプルですが、その間には、服や靴の着脱、財布や鍵の確認、店までの移動、実際の買い物といった、実に様々な動作が組み合わさっています。

また、財布や鍵の確認といったことは、筋肉の動作のみならず、「プランを立てる」「必要なものを考える」といった脳の作業を伴います。近所の店まで行くということは、「途中で近所の人とあいさつや会話をする」「お店の人とのやりとり」といった社会性にも関わります。

こういったことも含めてIADLになるので、厚生労働省は上のように「心身機能」「活動」「参加」の3つの点を挙げています。

個別機能訓練加算Ⅱの算定要件

では、あらためて個別機能訓練加算Ⅱの算定要件について解説します。

人員配置

人員配置については、専ら機能訓練指導員の職務に従事する常勤の理学療法士等を1名以上、機能訓練指導員として配置する必要がありますが、「等」となっているので、その他に、国家資格を持つ作業療法士や言語聴覚士、看護職員、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師を機能訓練指導員にした場合でも基準を満たすことになります。

個別機能訓練Ⅰとは違い「常勤」ではないので、機能訓練を実施する間だけ勤務していればよいことになります。

訓練について

生活機能の維持・向上のための訓練を効果的に実施するためには、実践的な訓練 を反復して行うことが中心となるため、身体機能を向上とすることを目的とした機能訓練とは異なるものである。実際の生活上の様々な行為を構成する実際的な行動 そのものや、それを模した行動を反復して行うことにより、段階的に目標の行動が できるようになることを目指すことになることから、事業所内であれば実践的訓練 に必要な浴室設備、調理設備・備品等を備えるなど、事業所内外の実地的な環境下で訓練を行うことが望ましい。

出典:厚生省

訓練内容や訓練を行う環境について、このように定められています。

「近所の店まで買い物に行く」が目標とします。理学療法士などの機能訓練指導員が実施者となり、それに関わる機能訓練を実施します。

具体的には、衣服や靴の着脱を繰り返し練習したり、実際に外に出て歩いたりしながら、目標に沿った機能訓練を行います。

目標の設定が「入浴」や「調理」、「趣味」に関することであれば、それぞれに合った設備や備品が事業者側に用意してある必要があります。

個別機能訓練加算Ⅱの届出手順

個別機能訓練加算Ⅱを算定するには、以下の4点の書類が必要になります。

  • 変更届出書
  • 個別機能訓練加算に関する届出書
    自治体によって「通所介護における個別機能訓練加算チェック表」など、名称は異なりますが、内容としてはほぼ同じになります。
  • 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
    算定開始予定月の従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表になります。
    実際に個別機能訓練を行う機能訓練指導員の勤務体制が分かるように記載します。
  • 機能訓練指導員の資格証の写し
    機能訓練指導員に該当する職種は国家資格ですから、この資格者証のコピーを添えて提出することになります。

平成29年3月時点で、申請に必要な書類の様式や名称を変更する自治体があります。

加算の届出が遅れると、算定開始が遅くなるので、早めに確認されることをおすすめします。

これらの書類を県または市町村の福祉課等に提出します。

京都市を例に挙げると、届出受理日が毎月の15日以前に受理されれば翌月から、16日以降に受理されれば翌々月からとなっています。

加算の始まりは、申請書類作成日や発送日ではなく、担当課に受理された日を基にされているので注意が必要です。

個別機能訓練計画書について

個別機能訓練計画書とは

個別機能訓練計画書には、利用者のニーズや課題に合わせて、長期目標と短期目標を設定します。

また、具体的にどのようなプログラムを行うのか、プログラム提供時における留意点、機能訓練の頻度と1回あたりの時間なども記載します。

平成27年度改正の影響を受け、この個別機能訓練計画書作成に先立ち、機能訓練指導員が居宅を訪問することが必須になっています。

見直しの時期

3カ月に一度はモニタリングを行い、個別機能訓練計画書の見直しを行います。

目標の達成度に応じて、目標やプログラム内容の変更、継続を判断します。

利用者の心身や環境等に大きな変化があった場合にはその都度対応します。

利用者に説明し、同意を得るとともに、ケアマネジャーにもコピーを送付します。

様式の例

個別機能訓練計画書の様式例は以下から見ることができます。

個別機能訓練計画書 記入例

まとめ

個別機能訓練加算Ⅰよりも加算の大きいⅡについて、まとめてみました。

平成27年度の改正により、居宅訪問や個別機能訓練計画書の頻繁な見直しなど、ただでさえ忙しい現場において時間を取ることがなかなか大変なようですが、しっかり加算をとって安定した経営とよい人材を確保していきたいものです。

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個別機能訓練加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

(専門家監修:矢野文弘 先生)

キャリアパス要件の記載例について

介護事業者の皆様も関心の高い介護職員処遇改善加算。

しっかりと加算の算定をすることで、安定した人材を確保しておきたいものです。

今回の記事では、介護職員処遇改善加算算定において必要となる、キャリアパス要件届出

書の記載例を解説していきます。

今後の運営にお役立ていただけたらと思います。

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キャリアパス要件とは

キャリアパス要件の概要

介護の現場において、介護職員の不足だったり、離職率が高かったりすることなどが問題であると指摘されています。その要因としては、賃金や待遇が低い、キャリアアップが望めないような環境にあることなどが考えられています。

それらを改善するため、介護職員処遇改善加算が作られました。

キャリアパス要件とは、その算定要件のことを言います。

 

介護職員にどのような能力があるか、保有している資格や経験などを、適正に評価するためキャリアパス要件があります。

事業所において、介護職員がより長く働きたいと思えるような環境を整えていくことが、キャリアパス要件の目的と言えるでしょう。

キャリアパス要件の種類

キャリアパス要件には3種類あります。以下に解説していきます。

  1. キャリアパス要件Ⅰ
    キリアパス要件Ⅰでは、介護職員がそれぞれに定められた職位によって、その職務の責任や専門性を明らかにして、適正に評価することが定められています。
    同じ職場で、仕事を長く続けようと思えるように、きちんとした評価を行います。
    また、賃金体系についても同様で、どのような形で賃金が支給されるかという制度を整えます。これらの根拠規定を書面で整備し、全ての介護職員に周知していることが必要となります。
  2. キャリアパス要件Ⅱ
    キャリアパス要件Ⅱでは、介護職員の資質向上を目標として、資質向上計画に沿った研修などを実施し、介護職員の能力評価を行います。
    資質向上とは、介護技術・問題解決能力等を意味します。能力評価の方法は、個別面談や上司による評価が考えられます。また、資格を取得しようとする者には、費用の負担等必要な支援を実施します。
    これらを、全ての介護職員に周知していることが必要となります。
  3. キャリアパス要件Ⅲ
    キャリアパス要件Ⅲでは、介護職員の経験や資格に応じた昇給の仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。とされています。
    昇給などに関しては、事業所ごとの基準であり、判断は様々です。そのため、勤続年数をどれほど積めば昇格となるのか。また、どのような資格を取得することによって昇給するのか、具体的に決めることで介護職員にとって透明性のある分かりやすい内容となります。

キャリアパス要件届出書とは

介護職員処遇改善加算の算定には、介護職員処遇改善加算計画書への記載が必要です。

また、これとは別にキャリアパス要件届出書の提出も行う必要があります。

キャリアパス要件届出書に記載する内容については、以下の通りです。

 

  1. キャリアパスに関する要件について
    キャリアパス要件Ⅰについて、要件を満たしているか、チェックを行います。
    要件Ⅰに該当しなかった場合、要件Ⅱの要件を満たしているかチェックしましょう。
    要件Ⅰが非該当となった場合は、その理由を記入します。
    また介護職員と意見交換を行った上で、資質向上のための目標を記載します。
    目標は具体的に書くようにしましょう。
    この内容について、資質向上のための計画を作成する場合は、計画書を添付します。
    最後に要件Ⅰ、Ⅱのいずにれも該当しなかった場合で、要件Ⅲの要件を満たすかチェックします。
  2. 職場環境等要件について
    続いて、職場環境等要件について記載します。資質の向上・労働環境・処遇の改善とその他内容について、該当する項目があればチェックを行います。

キャリアパス要件届出書の記載例

それでは、キャリアパス要件届出書にどのように記載すればよいのかを、記載例を基に見ていきましょう。具体的な内容を記載している例のURLを載せておきますので、参考に なさってください。

キャリアパス要件等届出書 記載例
キャリアパス要件等届出書 記載例

まず、申請をする事業所等情報を記載します。
複数の事業所をまとめて届け出る際は、提供するサービス名を記載するか、または別紙 一覧表の通りとして別紙様式(事業所一覧)を添付することもできます。
その場合、事業所番号の記入は不要となります。

続いてキャリアパスに関する要件について、記載していきます。
要件Ⅰを全て満たしている場合、該当に○をします。満たしていない場合は非該当とな ります。要件Ⅱを申請する際も、忘れずに非該当に○をつけましょう。
該当する場合、①の任用等要件と②の賃金体系について、就業規則等で何条に規定され ているか具体的に記載します。
承認申請の時に該当する根拠となる規定を提出していない場合は、届出書に添付します。
なお、職員への周知書面については、労働基準法上作成義務がない規則であれば、書類 の添付が必要になります。作成義務のあるものであれば、添付する必要はありません。
また、この要件を満たすために、就業規則等の改正を行った際は、変更後の就業規則等 を添付するとともに、別紙様式5変更届の提出が必要になります。
常時雇用する者が10名未満等、小規模の事業所においては、就業規則作成の義務がない ため、内規等によって職員へ周知しておきます。

キャリアパス要件Ⅰの要件に当てはまらず、要件Ⅱに該当する場合は○をつけます。
非該当の場合も同様です。
加えて、要件Ⅰの任用等要件や賃金体系等の要件を満たすことのできない理由を記載し ます。
例えば、現時点では給与体系を整備しているところであるため困難であるなど、具体的 な理由を記載するようにしましょう。
次に、介護職員と意見交換を行って、資質を向上するための目標を書きます。
例えば、利用者の要望に応えるべく良質なサービスを提供するため、介護職員の介護技 術や問題解決能力等の向上に努めるというような内容や、事業所全体として資格取得す る割合を向上していくという内容などです。
また、それを実現するため、具体的に取り組む内容について記載します。
アの資質向上のための計画に沿って行うことを選んだ場合、研修計画などの計画書を添 付することが必要になります。様式は、事業所の任意で結構です。
但し、加算を算定している場合は、計画の添付を省略することができます。
イの資格取得のための支援の実施を選んだ場合は、例えば受講料等費用の負担や研修を 受講するために勤務を調整するなど、支援の具体的な内容を記載します。

要件ⅠとⅡに該当しない場合で、要件Ⅲに該当する場合、該当する項目へ○をつけます。

続いて定量的要件について該当する項目に○をつけていきます。「処遇全般」や「教育・ 研修」「職場環境」「その他」と四項目ありますが、全項目の中で○が1つ以上あれば良 いとされています。
記載する内容については、平成20年10月以降で、届出日の前の月までに実施した内容 となります。例えば、平成29年4月10日に届出る場合は、3月31日までに実施した 内容を記載しましょう。
 
次に、定量的要件を実現した際に要した費用の概算額を記載します。
記入する額については、上記と同様に平成20年10月から届出日の前の月までに実施し た費用となります。
例えば、施設改修費などといった経費の名称と、それに要した費用の額を書きます。
 
書面の一番下に署名と押印する箇所がありますが、必ず雇用している介護職員全員に対 して周知を行った上で提出しなければなりません。
押印も忘れずに行うようにしましょう。

まとめ

今回はキャリアパス要件の記載例について見てきました。
具体的な記載内容を示しているので、参考にしてスムーズに加算取得のための書類作成 と申請を行っていただけたらと思います。
参考になったという方は、シェアをお願いします。

 

キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

 

(専門家監修:矢野文弘 先生)

ささやかれる介護職員処遇改善加算廃止。現時点で考えておくべき事とは?

介護事業者にとって、その動向が気になる介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加算)。介護職員の確保は死活問題であるだけに、可能な限り加算を算定して職員の賃金を改善したいところです。

しかし、今回の記事では、処遇改善加算が今後廃止も含めた見直しとなる可能性について解説していきます。

今後の経営における判断材料になればと思います。

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1 介護職員処遇改善加算とは

介護職員処遇改善加算とは、介護現場で働く職員の待遇を改善して職場への定着を図ると同時に、人材不足が続く介護業界の人材確保を目的として平成24年4月に創設されました。

平成21年10月より平成23年3月末までの間、「介護職員処遇改善交付金」という制度でした。

それまでの「交付金」が一時的な手当であるのに対して、「加算」という仕組みになったことで、介護保険におけるその他さまざまな種類の加算と同様に、要件を満たしている限りその事業所が上乗せして報酬を受け取ることができます。

その上乗せ分を職員の給与をアップさせるために使う、というのが処遇改善加算の概要です。使途については明確に処遇改善のためだけに使うことが求められています。

 

加算導入の背景には、介護職員の慢性的な人材不足があります。

2025年度までに介護職員がさらに100万人不足すると言われ、「給料が安い」「仕事がきつい」という世間のイメージを変えていかなければ、必要な人材の確保は難しい状況でした。

平成23年度までの「交付金」のスタイルを、「加算」の形式に改めたのは、税金ではなく介護保険へと財源を移行したことになります。

平成24年度~26年度までの3年間を加算での処遇改善とし、その後は基本サービス費本体へ内包するというのが、当初の計画でした。

もともとは3カ年の一時的な施策であり、予定通りに行けば平成27年度の介護報酬改定で加算という仕組みではなく、加算分の賃金上昇が可能なくらい基本サービス費がアップするという目論見でした。

しかし、介護報酬の改定には厚生労働省だけでなく財務省など関係各省庁の折衝があるため、思うようには進まず、加算の制度が維持されたという背景があります。

結果的に、平成27年度介護報酬改定においては制度が維持されただけでなく、さらに介護職員の社会的・経済的な評価を高めるサイクルを生み出すために、介護サービス事業主の取組みがより促進されるように加算が拡充されました。

平成29年度には、本来3年に一度である介護報酬改定のペースを崩してまで、特例で介護報酬のアップ改定がなされました。

 

これにより財源が確保され、さらに月額平均でおよそ1万2千円を上乗せすることが可能となる「加算区分I」が創設されました。

加算区分はI~Vの5段階となり、最も高い加算Iの全ての要件を満たすと、最大37,000円の加算算定が可能となりました。

この時に新設されたキャリアパス要件IIIには、「昇給」について触れられています。

必要な要件(経験や資格)を満たした場合には昇給させるか、または定期的な昇給を行う仕組みづくりを事業所に求めるもので、事業所側にとっては将来にわたって続くコスト増の要因を含むものとなります。

2 介護職員処遇改善加算の廃止

介護職員の待遇を改善する上で、一定の成果を上げている処遇改善加算ですが、今後については不透明な側面もあります。

厚生労働省では社会保障審議会介護給付費分科会が加算について議論を行っています。

その中で、処遇改善加算は「例外的かつ経過的な取り扱い」とされています。

導入当時、人材不足が原因でユニットの一部を閉鎖せざるを得ない特養や、事業を続けられずに閉鎖される事業所もクローズアップされるなど、人材不足解消が非常に喫緊の課題でした。

本来、職員の給与は雇う側と雇われる側の契約に基づいて決まるもの。採用したい会社は他社よりも給与をアップして「差別化」を図ります。

給料が安い会社は人が集まらず、淘汰されることもあります。

一方、高い給料の会社は人件費に見合った売上を上げられなければ、経営が危うくなります。

国が主導して給料アップを推し進めたのが処遇改善加算です。

厚生労働省は「あくまでも非常手段である」という立場を明確にしています。

平成24年度からの3年間限定であったはずの処遇改善加算制度ですが、今のところ処遇改善はまだ道半ばとの意見が大勢を占めているようで、さらなる処遇改善策が取られる可能性もありそうです。

しかし、気がかりなのはやはり財源です。

介護保険財政は非常に厳しく、アップされたサービスがあればその分ダウンもあり、総額は抑制するという改定が続いています。

基本サービス費に含めることが最終的なゴールですが、その具体策までは示されていません。

 

加算という制度で賄うということは、利用者の自己負担にもそのまま転嫁されることになります。

もちろん介護職員の給料は介護保険料と利用者が払う利用料から支払われている訳ですが、「介護職員の給料にするため」というはっきりした使い道に納得がいかない利用者がいてもおかしくありません。

景気が後退すると世論ももっと厳しいものになるでしょう。

また、介護職員だけでいいのか?という議論もあります。

介護サービスの事業所にはその他に生活相談員やケアマネージャー、看護師、栄養士、調理員、ドライバーなど様々な職種の人が働いています。

 

このように多くの課題を抱える介護保険制度。

財政が厳しいことから、抜本的な改革の必要性が叫ばれています。

処遇改善加算についても、一定の水準に達したと判断されれば、廃止も含めた制度変更が必ずあると考えられます。

3 事業所廃止における介護職員処遇改善加算

職員を確保したい事業所にとっては、「処遇改善加算は満額を取得しています」というのは大きなアピールポイント。できることなら算定したいものです。

しかし、加算の制度が充実しても、収入の柱となる基本サービス費が下げられてしまっては、元も子もありません。

平成30年度の介護報酬改定で、本来の計画である基本サービスへの内包化がどのように進められるのかはまだはっきりしていません。

全容が明らかになるまでは、現行の処遇改善加算も含めて慎重な判断をしたいところです。

ここでは、仮に介護職員処遇改善加算の算定を終了する場合について触れておきます。

年度中に介護サービス事業所を閉鎖する場合や、処遇改善加算の算定を終了する場合には、まず速やかに終了届出書の提出を行います。

事業所が一カ所である場合や、法人内に事業所が複数ありその全てで加算算定を終了する場合は、年度の初めから加算算定を終了するまでの間の実績報告を行う必要があります。

この場合、最終の加算の支払いを受けた翌々月の月末までに、実績報告書を各指定権者に提出しなければならない事となっています。

変更についての届出や報告については正しく処理をしないと場合によっては支払われた加算の返還を求められる場合もあります。

詳しくは事業所を所管する各指定権者に必ず確認をして手続きを完了させてください。

まとめ

介護職員の確保に一定の貢献をしている「処遇改善加算」。

もともとは期限のある一時的な施策でした。今後の介護保険を取り巻く情勢の変化から、制度自体がどのような方向性に進むのか不透明な状況です。

平成30年の介護報酬改定は、前年の秋頃には内容が判明する見込みです。

動向に注目しつつ、慎重な判断を心がけたいものですね。

 

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処遇改善加算について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

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